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 スマホが何度も振動し、さすがに無視するわけにもいかない。涙を袖で拭うとスマホを取り出す。道雄からの電話だった。きっと、なかなか帰ってこないことに痺れを切らして電話をかけてきたのだろう。あんな事があった後に、帰ってこないのは親として心配する気持ちは分かる。  このままずっとここにいるわけにもいかず、脩は震える膝をなんとか立たせ部屋を後にした。  駅へと向かいつつ道雄に電話をかけ、もう少ししたら帰る事を告げた。電話越しに不安の色を滲ませつつも、何か感じ取ったのか分かったの一言で静かに通話は終了した。  最寄り駅についた時には、既に闇が空を覆い街灯の光がやけに目に染みる。こんな顔で帰ったら道雄は驚くだろう。あんな事があったショックだと思われでもしたら、行くことを止められてしまうかもしれない。美世の約束を反故するなんてことはしたくはなかった。  ふと、久しぶりにあの公園に行こうと思いつき足をそちらへ向ける。  数ヶ月ぶりの小さい公園が目の前に現れ、懐かしさが込み上げてきた。思わず、涙の膜が視界を覆い風景が霞む。気持ちを切り替えに来たはずが、余計に感情が湧き上がってきてしまう。  一歩ずつ微かに震える足を動かし、車止めを抜ける。  ブランコに座る人影に気づき脩は目を見開く。涙が一気に頬を伝っていき、目の前の視界がクリアになった。街灯に照らされた綺麗な横顔に、見間違うはずがない。 「あきら!!」  脩は叫ぶと同時に駆け出し、立ち上がって逃げようとする秋良の腕をなんとか掴む。 「なんで急にいなくなったりするんだ!」  感情が高ぶり、脩は声を荒げてしまう。秋良を逃すまいと、掴んだ手に自然と力がこもる。 「俺は……先輩を騙してたんですよ……」  顔を俯かせ、呻くように秋良が声を発する。 「そうだとしても、僕を助けてくれたじゃないか。それに――」  脩は腕を離すと、飛びつくように秋良の背後から腰に手を回し肩に顔を埋めた。 「好きって……言ってたじゃないか……」  秋良の微かに震える体を感じ、脩は腕に力を込める。 「僕だって好きだ。秋良が好きなんだよ」 「せん、ぱい……」 「嘘だったのか? 僕の心を動かしたあの言葉は偽りだったのか?」  違うと言ってほしい。涙が止めどなく溢れ出し、体が震えだす。秋良がここにいるのに、心は不安に押しつぶされそうになってしまう。

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