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06
安定の盗み聞……周りの声に耳を澄ませてみればまさかの台詞。律信者の中から恨まれるはずの織田に対しての一言に堪らず心の中で叫んでしまった。いや、ちょっと声にも出た。
なんで!?
あいつらのような女の子みたいな顔をした奴は律みたいに背が高くて男らしくて格好いいのが好きなんだとばかり思ってた。
まさか織田みたいな美人にときめくとは。
――まあ…確かに試合中の織田を悔しいがちょっとだけ、ほんのちょっとスズメの涙ぐらいには格好いいと思ってしまったのは事実だけどさ…
しかしこれは運動できない奴が運動できる奴に憧れるのと同じことだと思う。
初めて織田のいい方向でのギャップを発見してしまい、悔しいような嬉しいような何とも言えない気持ちになる。
複雑な気持ちのまま階下を見ていれば律が嬉しそうに織田の細い体に抱き付いていた。沸騰したヤカンに触れた時のような速さで周りから上がる悲鳴。
果たしてどちらに対しての悲鳴なのかは分からないが、バスケ部の奴らからは「ふざけんな律ー!」「やめろ!離れろ!イチャつくなー!」「おっ、織田くうぅん…!」と必死な声が聞こえてきて思わず吹き出しそうになった。
抱き付かれた当の織田は慣れているのか、特に気にした様子もなく律の背中を軽く叩いて好意に応えている。…くそー、お似合いだな。
今更ながらあの2人の横に並んで歩けていた自分の精神力の高さを褒め称えたくなるわ。
その後も順調に勝ち進んでいった律たちだったがあるクラスに当たった瞬間、問題が発生した。
「な、なにあれ…最低…!今の絶対ワザとだよ!」
「ここからなら分かるのに…審判の人からは見えないのかな…」
「…あんなのヒドイよ…!ルール違反だよね!?」
俺も今回ばかりは同感だ可愛い系。
お気楽気分でベンチに座ったまま観戦していた俺だったが、目を見張るほど嫌な展開に流石に腰が浮いてしまった。
「なんだよ、あいつら…!」
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