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君の後ろ姿(和泉視点)

お久しぶりです。 完結した作品ですが、他の投稿サイトで知り合った書き手様から頂いたバトンのために短編を書き下ろしました。 お題は「尻舐め上げ or 撫で上げ バトン」。 わたしは撫で上げ、で参加。 楽しんで頂ければ幸いです。 ୨୧┈┈┈┈୨୧ 「新堂くん、この間の資料、助かったよ」  朔耶が誠心医科大学病院のアルファ・オメガ科の医局に出入りするようになって一年。愛おしい番は、和泉だけでなく、他の医師たちの心もすっかり掴んでしまった。  医局を訪ねてくると、朔耶は和泉の元にやってくるまで数人の医師に話しかけられる。今日は、医局に入ってきたとたん、待ち構えていたように後輩医師の高城に捕まった。 「高城先生、お役に立ててよかったです。学術がちょうど米本社から情報を得ていたようだったので、タイミングとしては丁度よかったと思います」 「お、新堂くん、今日も元気だね!」 「大村先生、お世話になります」 「さっき部長が顔出してほしいって言っていたよ」 「ありがとうございます! 後ほど伺います」  朔耶は最近ここにくると忙しそうだ。そもそも、彼の上司の長田に次々と得意先を任されているらしく、誠心医科大学を訪ねてくる頻度も接触する時間も極端に減っている。  ついこの前までは、まっさきに自分の前に来て、そのかわいらしい笑顔を見せてくれていたのに。  いや、朔耶の飛躍は喜ばしい。しかし、この誠心医科大学病院のアルファ・オメガ科で朔耶を独り占めできなくなってきたことは不満だ。  もちろん関係者の間では和泉の番であるという意識があるだけに、彼らにも遠慮がみられるのが承知している。自分としても朔耶の仕事を邪魔をしたくない。しかし、アルファ特有だろうか、独占欲がときどき頭をもたげる。 「……この場合の数値なんですけど……」  和泉は朔耶が他の医師と資料を掲げながら話す姿を眺める。チェアに腰掛けている医師の目の前で腰を少し曲げて、大きなファイルを開いて、説明をしている。 「……そうなんです。現在はアルファのヒート抑制剤としてフェーズスリーの治験段階なんです。少しずつデータは集まっているようではあるのですが、キーオープンは来年になると言われていますね。ちょっとそのあたりの詳しいデータは開発が握っているので、わたしたちではなかなか情報が集まりにくいのですが」  新薬の話らしいな、と和泉は朔耶と同僚医師の会話に耳を傾けながらPCを操作する。時間のあるうちに論文をチェックしておこうと思ったのだが、朔耶が他の医師に情報提供活動をしているのを見ると、なかなか集中もできない。  思わず視線がそちらに向く。  ふと、朔耶の尻が視界に入った。小ぶりで、きゅっと引き締まり上がった可愛らしいフォルム。今日身に着けているすらりとしたシルエットで、シックでストイックな雰囲気のネイビーのスーツでも、その色気を覆い隠すことはできない。  朔耶の臀部は、いつもまっさらのあられもない姿で自分の前にさらけ出される。双丘を両手で割り開き、その奥にある蕾に、自分の猛りを……。  そんなことを一瞬考えて、慌てて英論文を表示した画面に視線を集中させようとする。  いつもはこのようなことはないのだが…。  そう思って気持ちを切り替えようとする。  きっと、昨夜からのすれ違いが、すべての原因だ。  朔耶は土日を含め週の半分以上を和泉のマンションに泊まっている。住まいを一緒にしたいという和泉と、そこは分けたいという朔耶の互いの思惑が交差して、妥協点としてこのような形に落ちついた。昨日は朔耶や和泉の自宅に泊まる日であった。  しかし、昨晩は担当患者が想定外の発情期に入ったこともあって帰宅が夜半すぎになったあげく、朔耶の方は早朝から纏めたい資料があるとのことで、和泉が熟睡する朔耶を抱いて寝入ってからさほど経たずに起きて出勤していった。その結果、言葉を交わすこともできず、朝のキスも叶わなかった。  番った安心感で、朔耶をもう少し自由にしてやれるかと思ったが、アルファの本能的な独占欲は貪欲なようで、ますます朔耶を自由にしてやれる部分が減ってしまったような気がする。  和泉が朔耶と同居を希望しているのには理由がある。それを契機に最愛の番が安心して暮らせるようなセキュリティレベルの高い住居に引っ越そうと考えているためだ。しかし、朔耶から見ればやはり番とはいっても、得意先の医師とMRという立場に変わりは無く、最低ラインの距離を保っておきたいという意識がある様子だった。  そうなると和泉も強引に事を運ぶことができない。いや、アルファなのだから、問答無用で進めることはできるが、できるならばきちんと同意を得たい。本音を言えば一刻も早く一つ屋根の下で暮らしたいと逸るが、自分たちには何かきっかけが必要なのだろう。 「ほら、新堂くん。和泉先生がお待ちだよ」  あまりに難しい表情をして睨んでいたせいか、気を遣った同僚が朔耶の注意を和泉に向けさせてくれた。  和泉は内心で己の行為に苦笑した。  朔耶にふさわしいアルファでいたいと常々思っているのだが。  どうにも欲望に忠実になってしまう。  大人げない、とは思うのだが、それを改めようとは思わないあたりが、どうにもしようがないと思う。 「和泉先生、お待たせして申し訳ありません」  朔耶がそのような謝罪を口にして、和泉の前までやってきた。PCをログアウトすると、和泉は立ち上がる。 「オフィスで話を聞こうか」  割り当てられたオフィスは医局の並びにある。  本来であれば移動する必要などないのだが、どうしても朔耶を捕まえておきたいという欲が出てしまった。  室内に朔耶を招き入れると、扉の鍵を密かに締めた。特に見られても問題はないし、番同士であるのは周知の事実ではあるが、念のための保険だ。 「和泉先生?」  朔耶が可愛らしい唇を開いて、和泉を呼ぶ。  和泉は思わず、朔耶の魅惑的に開いた口に自分の唇を重ねる。そしてそのまま、驚いて閉まらないうちに、いつものように舌を入れ込んだ。 「ん……」  息が鼻を抜ける、快感を伝えている合図。  そのまま、和泉は右手を背後に回し、先程無意識に視線を追っていた、尻をするりと撫で上がる。  双丘の下から、脇の敏感なラインに添って上まで。  その指の感触に朔耶は無意識に腰を揺らした。  和泉は構わず、そのまま左側の尻をぐっとに掴み、揉みししだく。 「あっ……」  驚いて思わず身体を離そうとした朔耶の身体を寄せた。  そう。ここをぐっと掴んで、揉みしだいて、撫で上げたかったのだ……。 「これくらい……許されるだろう?」  耳元でそう呟くと、朔耶は和泉の白衣を纏った腕を掴んだ。 「……暁さんなら、いつでも」  そう言って、自ら唇を重ねてくる。 「ん……はあっ……」  互いの口腔を貪るような息づかいが無人の室内に響く。朔耶は和泉の手によって尻を揉まれ、煽られ、スラックスの中心部を硬くしていた。 「あ……きらさんのせいで」  自分のせいで?  と和泉は分かっているのに聞く。  朔耶は快感の涙に濡れかけたまつげを伏せる。 「これじゃ……次の仕事にいけない」  それは責任を取れ、といっているに違いないと和泉は理解する。 「お許しが出たな」  手はすぐさま、朔耶のスラックスのベルトに伸びる。そのまま、扉に朔耶の背を預けさせ、片手で器用にベルトを外す。そして、スラックスの前を寛げさせた。  目の前に晒されるのは、硬く自己主張し、下着から顔を覗かせる朔耶の欲望。  下着をずらすと、ぶるんと勢いよく顔を出す。 「尻を触っただけで、敏感だな」 「……だって……」  朔耶が俯く。 「…発情期近い…」  和泉はふっと視線を緩めた。 「…そうだったな」   朔耶の目は潤んでいる。自分に触られる場所全てから快感を得られそうな程だなと和泉は思う。 「今夜は抱くぞ」 「う……んッ」  嬉しい約束と共にキスを交わす。  そして、和泉は腰を落とし、朔耶のその場所を、躊躇うことなく口付けた。  はたして今、これだけで済むだろうかと思いながら。 【了】 ୨୧┈┈┈┈୨୧ 最後まで読んで頂きありがとうございます。 朝キスができなかったのが不満な和泉先生。 和泉先生が朔耶の後ろ姿で仕事をする姿を見ていて、朔耶をなで回したいという感情が爆発し、視線で朔耶を煽り、そのまま自分のオフィスに連れ込んで、そこで尻を撫で上げ揉みしだき……という。 …というネタが突如降ってきて(オチなし)、ワンライ並みのスピードで書き上げた作品です。 それにしても和泉先生、仕事しようよ…。

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