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指輪(朔耶視点)
ツイッターの企画で1700字ほどの短編を書きましたので、こっそりアップします。
前話の接待のお話のその後…というかその週末。
案外、和泉先生は余裕そうに見えて腹に据えかねていたようで(笑)
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身体が重い……。
そう感じながら目覚めた新堂朔耶は、自分がいつものように番の和泉暁の胸の中にすっぽり居ることに気がついた。まだ少し働かない頭で周囲を見回すと、そこは白いシーツの上。和泉の部屋の寝室だった。
自分は和泉とおそろいのパジャマを身に着けていることが分かる。和泉は起きており、朔耶が目を覚ましたことに気がついたようだ。
「ん? 起きたか?」
このような状況になっている経緯について、朔耶にも記憶がないわけではない。
金曜日の夜、接待の席で飛鳥山病院の飯倉院長の誘いを断り切れず、アルコールを口にしたのがそもそもの失敗だった。強いわけではないのに、勧められるままに飲むはめになり……。
その後はあまり記憶にない。たしか、飯倉院長に誘われた二次会は断ったつもりなのに分かってもらえず、困っていたところ、和泉が何故か迎えにきてくれた。
「今は……?」
「日曜日の夜だ」
そのまま和泉の車でこのマンションまで戻ってきた。玄関に入るやいなや和泉から求められ、そのまま縺れるように寝室に移動して、その後の記憶は本当に曖昧だ。
ただ、服を着る間もこの寝室から出る暇もなく、和泉から求められ、また朔耶も彼の身体を貪っていた気がする。
番としての契約を交わして以降、発情期以外でこの部屋で、こんな爛れた週末のひと時を幾度か過ごした。しかし今回は、これまでに経験がないほどに和泉の求めが激しかった。彼が憤りを抱えているのは明白だった。
「あの……金曜日はごめんなさい」
和泉のそんな感情の機微を、朔耶も敏感に察している。忙しい身の上なのに、あんなところまで迎えに来てもらい、とても迷惑をかけてしまった……。
そんな自分が情けない。
「接待で、意識を失いかける程に酔うなんてあり得ない」
和泉の口調は呆れ気味だった。これまでこんな風に言われたことはなく、ますますショックだ。
でもその通りだ……。
あからさまにしゅんと落ち込んでしまったせいか、和泉がため息を吐いて朔耶の身体をぎゅっと抱き寄せる。
「もうこんなことは止めてくれ、約束だ」
和泉はさらに自分の左小指を差し出す。指切り? そんな幼稚な行為に朔耶は違和感を覚えつつ、自分の左小指を絡ませようとした。
「え」
その小指の隣。薬指にシルバーカラーの指輪が嵌まっている。初めて見るもので驚いた。自分は指輪など、着けてはいないはずなのに。
「それは、ペナルティだ」
和泉が言い放つ。
番というのは本能の契約だが、この関係には形式も必要だから、左手の薬指に結婚指輪を嵌めて欲しいと、以前、和泉から請われたことがある。しかし、朔耶は難色を示した。
MRの仕事をしていく上で、自分が誠心医科大学病院の和泉暁の番であると、多くの関係者に知られるのは勘弁して欲しいと思ったためだ。例えば、薬剤師は女性が多い。女性に人気の和泉と番っているなんて、下手したら彼女たちを敵に回しかねない。厄介だ。
そして、この関係を武器にしていると思われるのも心外だった。そんな複雑な感情が絡み、和泉の要望に応えられなかった。
「長田所長には今後、朔耶に接待をさせる場合は下戸で突き通せと言ってある」
「え」
下戸は体質だ。アルコールを分解する肝臓の酵素が原因に絡んでいる。
「今のご時世、酒を飲めない奴に飲ませる愚かな医療関係者はいないだろうからな」
朔耶がこれまでに見たことがないような笑いを和泉は見せた。
「朔耶の意思は知っているが、我慢の限界だ。これは譲れない」
そうして和泉は朔耶の左指の薬指にキスをする。
「これからは、本当に気をつけてくれ」
ちなみに……と和泉が楽しそうに言葉を続ける。
「このリングには婚約指輪もあってな。もちろん、朔耶のサイズで用意してある」
朔耶は初耳だ。和泉はそんな朔耶の驚きも意に介さない。
「今度、酒で失敗しかけたら、それも嵌めてもらうから。重ね付けオッケーなデザインだから問題はない。Dカラーのダイヤが敷き詰められたエタニティリングだ。その指輪を見なかったとは言えないくらいの輝きを放つぞ」
「わかった。約束する」
朔耶は結婚指輪がきらめく左手の小指をふたたび和泉のものと絡ませる。そしてその場所にキスを落とした。
【了】
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