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第1話 師匠

「お前さんも売れてきたことだし、そろそろ弟子を取ったらどうだい?  支度や後片付けといった細々したことを弟子にやらせれば、今よりもっとたくさん書けるだろう」 版元にそう言われて、確かにその通りだと思ったので「適当なやつを探しておいてくれ」と頼んだら、版元はその翌日にさっそく弟子候補を連れてきた。 さては最初からこいつを俺のところに押し込むつもりだったなと気付き、騙されたような気分になった俺はいささか不機嫌な顔で弟子候補に向き合った。 「お前、侍の子だろう。  浮世絵師の弟子なんかになっていいのか」 十五くらいに見える少年は、刀こそ差していないものの、こざっぱりした着物とまっすぐに伸びた背筋、それに整ったお上品な顔立ちからして、まず間違っていないなく侍の子だろうと思われた。 「構いません。  確かに父は侍ではありますが、女郎(じょろう)上がりの(めかけ)の子ですから、絵師の弟子になったと言えばむしろ喜ばれます」 「……そうかい」 悪いことを聞いてしまったという罪悪感で、俺はそれしか言えなかった。 まあ、ふてくされて嫌味を言いはしたが、この版元が使えないようなやつを連れてくるはずもないし、こいつを弟子にしてやってもいいだろう。 「お前、名前は」 「原田清十郎と申します」 「なら(せい)でいいな。  そんな格好では仕事にならないから、汚してもいい着物に着替えてこい」 「……はいっ!  ありがとうございます!」

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