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Ⅰ ラストサムライ⑤

天は二物を与えたのか? この国を手玉にとる頭脳 そして 驚異的な戦闘能力 「甘いぞ、小僧」 フッと口角が弧を描いた。 「戦いの最中に考え事か?」 わずかの間合い。 気が逸れた一瞬を男は逃さない。 黒いスーツが降り立った。 視界が揺らぐ。 足払いをかけられた。 「チィッ」 倒れたらチェックメイトだ。 どうにか踏ん張って体勢を保つ。 「どこを見ている」 横っ面を裏拳が弾く。 脳が揺れる衝撃だ。 「これは戦争だ。敵を見ろ。貴様を殺す敵だ!」 お前に言われなくても…… 「分かっとるわ!」 戦争だから手段は選ばない。 目の前の膝の裏。 男の脚を拳銃のグリップで殴る。 強靭な体躯も関節は鍛えられない。 男は倒れないが、距離を図るには成功だ。 簡単に倒れてもらっては困る。 お前は、我が国の頂に立つ男なのだから。 俺が、引導を渡すに相応しい死に方をしてもらわねーとな! これは戦争だ。 立ちはだかる敵を、どう(たお)す? ありとあらゆる計略を巡らせるが、考えが追いつかない。 力の差は歴然だ。 犬養の圧倒的な戦力を封じる術がない。 (まだだ) まだ勝機はある。 俺の優位に変わりはない。 (俺には、これがある) 拳銃が! この至近距離で発砲すれば、如何に犬養とてかわせまい。 お命、頂戴 「チェックメイトだ!」 ………………しかし。 二発目の銃声は撃てなかった。 「どうした?今、撃てば私を殺せるぞ」 グイッと銃口を左胸に引き寄せる。 男自らの手で。 「君は、私の命が欲しいのだろう!さァッ!」 撃てない。 銃身が、男の右手でガッシリ握られている。 この状態で撃てば…… 銃が暴発し、俺の腕が吹っ飛ぶ。 引き金に掛ける指が震えた。 グリップから手が滑り落ちる。 「幕末志士ならば、迷わず引き金を引いただろうね。己が身を顧みず、目的を遂行する。なぜならば」 彼らは、目先の些事(さじ)に囚われない。 「彼らは見ているからだ」 この国の未来を! 「彼らの血が(ひら)いた国だ。君には譲れない」 カラカラン 渇いた音を立てて、拳銃が床に転がった。 拾えない。 俺には、拳銃を。 拾ったところで、この男は殺せない。 「私は、彼ら志士の血が拓いた明治維新を生き抜いた」 抑揚ない声音が、ズンと胸に落ちる。 「ゆとり世代の君とは違う」 背に負う重さが違うのだ。 「……まだまだだね」 猿渡(さるわたり)君 ……と、彼は俺の名を呼んだ。 「6秒の遅刻だ」

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