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Ⅱ 今日から俺は①
「総理!総理!」
国会でお馴染みの呼び声を叫び、俺はまさに国会の一幕を演じている。
否。
演劇だったら、どれ程いいだろう。
「総理ィーっ!」
証人喚問の心境だ。
「なんだい?猿渡君。騒々しいよ」
ほわほわ
甘い湯気の立つ紅茶を一口、彼は流し入れた。
………俺の口に。
「これで少しは落ち着いたかな」
「落ち着く訳ないでしょう!」
「それは残念だ。せっかく英国から取り寄せた稀少な五ツ星茶葉なのに」
紅茶の味なんて分かったもんじゃない!
「ほどいてくださいっ」
俺の手は縄で拘束されて、吊るされている。
「ダメだ。君は虜囚だろう」
まず、そこ!
意味分からない。
百歩譲って、俺が虜囚だとしよう。
(虜囚がどうしてっ)
こんな縛られ方なんだーッ!
……………………亀甲縛り
服は脱がされてないから、不幸中の幸いなのかも知れない。
だが、それだって恥ずかしすぎる!
「ほどいて逃げるのも経験だ」
「無理です!」
大体どうして。
こんな事になっているかというと~。
俺は、猿渡 奏介 。
犬養首相の秘書兼ボディーガードをしている。
猿渡家は、代々犬養先生の秘書を務めている。
老齢の父に代わって、犬養邸に俺がやって来たのは二ヶ月前の事。
政治のいろはを、犬養先生に付いて教えて頂いている。
犬養先生は一国の首相。
暴漢に命を狙われる危険と常に隣り合わせだ。
ゆえに、若い俺が総理を守るボディーガードを兼ねている。
………のだが。
(総理は何歳なんだ?)
どう見ても。
どう見たって、二十代だろ!絶対!
しかし本人は明治維新を生き抜いたって、言い張っている。
維新前の生まれなら、七十は越えてるぞ!
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