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Ⅱ 今日から俺は②
「君はまた、私を疑っているのかい?」
うっ。
考えている事が顔に出ていたらしい。
「若さの秘訣は、バランスの取れた食事と毎日の筋トレだ。私は紛れもなく、明治維新を生き抜いた」
嘘だ!
そんな事で驚異の若さが保てる訳ない。
嘘偽りなく、真実であるならば。
(本、出せよ)
世の奥様方がこぞって買うぞ。
「誕生日が維新前なら、ジジィですよ」
「………………ジジィ?」
ピクリ、と眉が跳ねる。
「猿渡君?」
フゥっと口許が吊り上がった。
「君は、私にそんな印象を持っていたのか」
目が座っている。
完全に。
しまったー!
総理の前で『ジジィ』は禁句★
「大体、君。暴言が多いよ。訓練中『獅子身中の虫』とか『邪悪の権化』とか」
そう。
今までの戦闘は、全て訓練。
ボディーガードを兼ねる俺が、総理を護衛するのに的確な判断力を養うための実地訓練だったのである。
命を狙う暴漢側にならないと、有事の際に動けないと総理の提言を受けての。
俺が暴漢になって、シミュレーションする身辺警護訓練の一環であった。
「俺はっ」
獅子身中の虫
とか、
邪悪の権化
とか。
「言って」
「言ってたよね?心の中で」
うっ。
(読まれてる)
でも、それは。そうでも思わなければ、暴漢の心理が分からない……という事で~。
口に出してないのに見透かされている。
(さすがは、この国を手玉にとる頭脳)
「手玉にとってなどいない。国の将来を考え、心を砕いているのだ」
うっ、また読まれた。
「それに何だった?万に一つ、私が君に破れた時の敗北宣言は」
「……『犬養死すともロリヰタ死せず!』」
「私はロリコンではない!」
「しかし、総理ッ」
「何度も言わせるな。私のストライクゾーンは10歳から70歳だ!」
十分、犯罪だろ。
「こんなにも屈辱的な敗北宣言を考えた君は、なんと不届きなんだ」
俺、間違ってないと思う……
「君の身体能力からすれば、あと6秒早くこの部屋に辿り着けた筈だ。ここで、一つ減点」
うっ。
「私への暴言で減点」
うっ。
「ロリコン呼ばわりで減点」
それは間違ってないって!
「最後は、この拳銃」
窓から射し込んだ陽光。
キラキラ輝いたシャンデリアの火を受けて、鈍色に光った銃身をかざした。
「実弾を装填 していた」
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