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失恋(4)

 失恋を、知った。  誰かを、しかも男を愛していた事に戸惑うよりも、胸の痛みに息ができない事に驚いた。  今まで恋愛だと思っていたのは、なんだったのか?  こんなに痛い思いをしたことはない。  その日、俺は社会人になって初めて早退した。俺の顔色が朝から優れない事を、加賀地が心配したのだ。 『少し前まで忙しかったから、今になって疲れが出たんだろう。数日、休んで構わなよ。有給も、溜まってるだろ?』  加賀地の気遣いに、俺は従った。正直このままなんでもなく仕事ができるとは思えなかった。こんな上の空で仕事をしてはミスに繋がる。それを思えば、大人しく数日休むのが適当に思えた。  …いや、これも言い訳だ。実際は、顔を合わせていられなかったのだ。  家に帰って、疲れ切ってスーツのままベッドに転がる。顔を手で覆って、俺は壊れたみたいに乾いた笑い声で笑っていた。  どこの生娘だ、こんなことで仕事が手につかないなんて。バカも休み休み言え。  とんだ体たらくに、自己嫌悪に陥る。俺はこういう事が許せなかっただろ。仕事にプライベートを持ち込み、コンディションを保てないのは社会人として未熟だと、言っていたのはどこの誰だ。  三日、何も手につかなかった。カップ麺で三日乗り切るなんて、学生時代だってしたことがない。  何もしていないのに、疲れてしまった。幸い、俺の気持ちは誰にも知られていない。だから、俺が割り切れれば今のままでいられる。  いられるのか?  三日も悩むと、気持ちも脳みそも疲れてきて、自暴自棄になってくる。明後日には出勤というのに、俺は無表情なまま上着を手に取った家を出た。  向かったのは、牧山のバーだ。

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