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始まりの朝

 後悔が全くないかと言われれば、悩む部分はある。  あの勇気をもう一度振り絞るかと言われると、多少尻込みするかもしれない。  こいつで本当に良かったのかと聞かれると、「たぶん」という答えが出てくる可能性もある。  それでも、隣で幸せそうな顔で眠る男を見ると、全ての質問に「大丈夫、これでよかった」と、最後は言うだろう。  陽光に起こされた俺は、だるい体を引きずってベッドを降りる。ベッドサイドのミネラルウォーターを半分くらい飲み干して、ようやく乾きが癒える気がした。  思ったほど、体の負担は大きくない。それはひとえに、明家が上手かったからだろう。  明家は本当に、どこまでも優しくて甘い男だ。俺の事ばかり気にして、自分はかなり抑えていただろう。  俺の中で、僅かな炎が灯ったように思った。まだ寝こけている男の、幸せボケした顔を僅かに睨む。とても、挑発的に。 「いつかその優男の仮面、引きはがすからな」  聞こえないくらい小さな声で、俺はこいつに宣戦布告をした。 END

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