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パーフェクト・ワールド・ハルⅡ-6
風紀委員たちが進んだのとは逆方向の、旧校舎に続く渡り廊下。そこに一台だけ設置されている自販機は種類が少ない所為もあってか、利用者は少ない。今日も、終わりかけとは言え昼休み中だと言うに、先客はいなかった。
「なんか飲む? ついでに奢ろうか」
「いらね」
「まぁ。そう言わず。好きだよな、これ」
行人の答えをさらりと無視して、高藤がボタンを押した。短い電子音の後、ホットコーヒーが出来上がる。湯気とともに甘い匂いが漂い上ってきた。
「たまには甘いの飲んで、休憩したら? 俺はブラックしか飲みませんって顔で、嫌そうに飲むの止めたらどうよ、いい加減」
「ほっとけ」
なんで一々細かいことに気が付くのだろう、この男は。視線を落としたまま、行人は諦めてそれを受け取った。まだ少し風が吹けば肌寒い季節だ。持った指先からぬくもりが伝わってくる。
「それで、なんでそんなにピリピリしてたの? 言っても、今更だろ。本尾先輩の挑発なんて」
「べつに。ちょっと虫の居所が悪かっただけと言うか」
自分の紙コップに口を付けて、高藤が首を傾げた。
「そんなに大変なわけ?」
「なにが」
「なにがって、……ミスコン。その勧誘がストレスになってんのかな、と。ほら、おまえ、昨日も茅野さんが食堂に入って来た途端、逃げ出してたから」
そっちか、と。行人はひそかに肩から力を抜いた。
「まぁ、そりゃ、ストレスっちゃストレスだけど。でも、あと一週間くらい逃げ切ったら、なんとかなるだろ。たぶん」
「榛名には悪いけど、茅野さん、なかなか諦めないと思うよ? ミスコンにかなり力いれてるから」
「だから、適当に折れろってか」
苛々と行人は吐き捨てた。それが一年生として正しい判断なのだろうとは分かるが、受け入れようとは到底、思えない。
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