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パーフェクト・ワールド・ハルⅣ-11

「会長の方がインパクトあるって話になっただけ。榛名がどうのこうの言ったわけじゃないよ。と言うか、一年の一存で寮の決定が変わるわけないだろ」  苦笑して見せると、それもそうかとの声がぽつりと上がる。 「いくらあいつでも、わがままの引き所くらい分かってるって」  あわよくば、他の一年に標的が移らないだろうか、とは願っていただろうけれど。どうにもならないとなれば、引き受ける心づもりだっただろうとは思う。成瀬に相談する選択を取らなかった時点で、そう決めていたのだと皓太は理解している。 「良いじゃん。実際、おかげで、会長の女装って言うある意味、貴重なものを拝ませてもらったんだし。なぁ、俺にも見せて、それ」  わざとらしいくらいの明るい声で、普段は入らない取り巻きの輪に二階が飛び込んでいく。気を使わせてしまったと思ったが甘えることにして、皓太は自席に戻った。こんなことで苛々するつもりもなかったのに。誰に投票するかで新たな盛り上がりを見せ始めた一団を視認して、溜息を一つ。 「まぁ、榛名の所為っちゃ、所為かもだけど」  それよりも強く誰の所為かと問われれば、間違いなく成瀬だろう。何もあんな斜め上な方向に転がさなくとも良かったはずだ。他にも絶対に手はあっただろうと皓太は思うのだが、榛名は相変わらず「成瀬は優しい」と妄信している。  ――あいつ、思い込み激しいからなぁ。  べつに、だからどうと言うつもりもないのだが。最後に溜息を吐き出して、視線を上げた瞬間。見てしまったそれに、皓太はまた溜息を吐きたくなってしまった。  アルファたちに囲まれた中心で、水城春弥は微笑んでいる。いつも通りの「天使」と呼び称されている笑顔。そこに一瞬見えた陰りを皓太は気が付いてしまった。気に喰わないと全身で訴えるような、負のそれ。  これは、榛名が出場しなくて本当に良かったかもしれない。ひとまず、その一点に置いては、成瀬に感謝することにした。あの入学式の式辞の時点で分かっていたことではあるが、陵学園に現れたニューヒロインは、なかなかの食わせ者のようだった。

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