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パーフェクト・ワールド・ハルⅣ-10

「高藤くんの同室って」 「なに?」  明らかに自分にかけられた声を無視できるほど、人間が出来ていなくはない。立ち止まった皓太に、水城がゆっくりと微笑んだ。どこか寂しそうに。  「榛名くんだよね。残念だったな。本当は僕、榛名くんと一緒に出てみたかったんだ。一人だと心細かったから、櫻寮と一緒にやれるって言う話を聞いた時はすごく嬉しかったんだけど、流れちゃったみたいで。僕と一緒は嫌だったのかな」 「え? ハルちゃん、榛名と出る予定だったの?」 「うん。実は、……あ、でも、これ言っちゃ駄目だったのかな。ウチの寮長さんが、初めの時にね、僕恥ずかしいし、自信もないから不安なんですって正直に話したら、櫻寮の子と二人で組んで出れるから大丈夫だよって教えてくれて」  即座に反応した取り巻きに向かって、水城が目を伏せる。 「それで、僕、人前に出るのも恥ずかしかったんだけど、折角だし楓寮のために頑張りたいと思ってオッケーしたんだ。でも、その話が流れちゃったみたいで、だから」 「そうだったんだ。でも、ハルちゃん一人の方が良かったかもしれないよ? 榛名って見た目はともかく、愛想の欠片もないヤツだし」 「そうそう、あいつ、いつも苛々してるし。一緒にやっても、ハルちゃんが気ぃ使って大変だったんじゃないかな」 「でも、折角だし。仲良く出来たらなとは思ってたんだけど」  取り成すように水城が微笑んだ。「もちろん、榛名くんが僕と仲良くしたいって思ってくれたら、の話だけど」 「あいつ捻くれてるから。今回もどうせ、榛名がわがまま言ったんだろ。そういや櫻のヤツも言ってたな。榛名がかなり出るの嫌がってったって」 「あのな」  不穏な方へ方へと流れていきそうなそれに、思わず口を挟んでしまった。そんなに大きな声を出したつもりもなかったのに視線が集まって、険のあるものになっていたのだろうかと省みる。だから、次の発声は努めて穏やかと評される風に取り繕ったつもりだ。

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