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パーフェクト・ワールド・ハルⅣ-9

「そんなことないって! ハルちゃん、めちゃくちゃ似合ってるよ。すげぇ、可愛い」 「そうそう。高藤は放っとけって。こいつ、櫻だし、同室がアレだから」 「アレって」  なんだ、アレって。人の同室者を、と言うか、同級生をアレ呼ばわりしてやるなよ、と。物申し掛けた皓太の気を削ぐには十分な台詞を、取り巻きの一人が口にした。 「櫻って言えばさ」  手にしていた新聞を繰って、出来れば直視したくないページを彼が広げる。 「これ、すごいよな。会長だろ?」 「うん。まぁ、……見ての通り、そうだけど」  ぎょっとしたように二階が皓太と紙面とを見比べていたが、苦笑しか出来ない。その間に、あっという間に会話は押し流されていく。 「ハルちゃんの可愛さとは正反対だけど、すごいはすごいよな。美人と言うか、妖艶と言うか」 「やりすぎなのにハマってるからやばいんだって。うちの寮も特に三年生がめちゃくちゃ盛り上がってたよ、昨日。フライングで写真を手に入れて来てた先輩がいてさ」 「分かる、分かる。でも、あれは、なんと言うか、俺らは盛り上がっちゃいけない領域だわ。怖いもん」 「ま、だからこその我らがハルちゃんだけどな」 「だよな、あれは俺らが手ぇ突っ込んだら、後で泣きみるよ、絶対」  泣きをみる、と言うか、手を突っ込もうとするな。頼むから。こんなことならいっそのこと、水城の話題でずっと盛り上がっていてくれた方が良かった。まだ一限目すら始まっていないのに、どっと疲れた。飛び交う話は自分からは完璧に逸れている。今のうちに退散しよう。そう目論んで動いたのが悪かったのだろうか。それまでにこにこと成り行きを見守っていた水城が不意に声を上げた。

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