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パーフェクト・ワールド・ハルⅣ-8
「ほら。さっそく、やってる」
「だな」
いつもに増して喧しいだろうと覚悟してはいたが、想像以上かもしれない。水城を褒めそやす複数の声が教室に入る前から耳に痛いほどだ。
いわく、「ハルちゃん、可愛い」「ハルちゃん、すごいね、これ」「陵のお嬢様なんか目じゃないね」「さすがハルちゃん」「ハルちゃん」「ハルちゃん」、である。
中等部にいたころは偉そうな態度を隠しもしていなかったアルファたちが、たった一人の編入生に猫なで声を振りまいている。榛名が見たら二階の比ではなく嫌がるに違いない。そんな想像で精神を和ませてドアを引く。前方にある水城の机に群がる一団は、嫌でも目に付いた。
「この写真、何回見ても可愛いね。ハルちゃんが一番って決まったようなものだね、もう」
「ありがとう、でもちょっと恥ずかしいな」
アルファに囲まれてはにかんでいた水城の顔がゆっくりと持ち上がる。目が合ってしまったと思った瞬間、なぜか嬉しそうに水城が口を開いた。
「高藤くんも見てくれた? 新聞」
「え、あー……。まぁ」
見たは見たけれど。水城の取り巻きから送られる視線は、多分に嫉妬を孕んでいる。面倒くさいなと思いながら、皓太は感想をひねり出した。
「すごかったね」
「って、それだけかよ? 可愛い、とか、似合ってる、とか。いくらでもあるだろ、普通」
「いや。だって」
可愛い、とだけはなんとなく言いたくない。それはおそらくに防衛反応だったのだが、水城の期待にはそぐわなかったらしい。どことなくしょんぼりした風に見つめられて、ぎくりとする。
「やっぱり、僕、変だったかな」
そして、これである。これが、――百歩譲って、学外で、女の子からであれば、とにもかくにも謝ろうと言う気も起きるかもしれない。だが、皓太からすれば、オメガであろうがなんであろうが、水城は男だ。水城のこれに庇護欲をそそられるアルファは多いのかも知れないが、皓太には良く分からない。
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