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パーフェクト・ワールド・ハルⅣ-7

 くわ、と欠伸を噛み殺して、皓太は校内履きに履き替えた。まだ朝も早いと言うに、楽しげな空気が昇降口にまで漂ってきている。  ――あぁ、そうだ。今日からか。 「高藤、おはよう」 「おはよ」  上がり框で同じクラスの二階に声を掛けられて、皓太はもう一度欠伸を呑み込んだ。 「眠そうじゃん。みささぎ祭の準備、大変なのか?」 「んー、いや、それほどでもないよ。一応、順調」 「高藤も大変だよな。やっと生徒会から解放されたと思えば、今度は寮生委員会だもんな」 「まぁ、でも、中等部の時とはまた違うし。ある意味では楽しいよ」  そう思わないとやってられない、と言うだけではあるが。優等生な回答に二階が肩を叩く。 「それだけ期待されてるってことだよ。高藤は目立つから」 「体よく押し付けられてるだけだって。それより、二階はもう見たの、校内新聞」 「まだ。でもどうせ、教室に一歩踏み込んだ瞬間、お祭り騒ぎだろ? そんなに急いで見たいとも思えなくて」  二階はアルファの多い皓太のクラスでは珍しいベータだ。積極的に聞いたわけではないが本人が言っていたので、「そう」なのだろう。だから、なのか。水城春弥にさした興味もなく、浮つき続けている教室内の空気に辟易しているらしい。同じく水城に過大な関心を示さない皓太の傍にいることが多くなっていた。その二階の顔が、自教室に近づいた途端、嫌そうに歪んだ。

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