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パーフェクト・ワールド・ハルⅣ-6

「知らなかった? 基本的に出るのは一年だろ? つまるところ、可愛い一年生のお披露目会なんだよ。まぁ、それぞれの寮の代表としての顔を売ることで、守る意味合いもあるらしいけどさ」  ウチの可愛い一年生なのだから、遠目に可愛がるのは良いが、むやみに手を出すなよ、と。ある種の牽制である。話の途中から険しくなっていた榛名の顔は、話し終えたときにはなかなかの凶悪なものになっていた。「なんだ、それ」 「あり得ねぇ、いろんな意味で」  苛立ちを追い出すように榛名が手を机に打ち付ける。発生した音は、ドンでもバンでもなく、ぐしゃだった。本人は気が付いていないが。荻原の「あーあ」と言わんばかりの視線を受けて、皓太は呆れて響くだろう声を出した。 「榛名」 「あ?」 「そのパンフ、おまえのにしろよ」  ようやく気が付いたらしい榛名が慌てて手を退ける。ぐちゃりとよれた紙が一緒に持ち上がると、険のあった顔に今度は気まずそうな色が乗った。マイナスの方面であれば、自分の前でも榛名の表情はだいぶ豊かになった。プラスのそれは、相変わらずだけれど。そこまで考えて、皓太は溜息を吐き出した。  なんだか意趣返しをしてしまった気分だ。じゃあ何が意趣なのかと問われると、言葉に詰まってしまいそうなのだが。開きかけた口の落としどころが見つからなくて、結局、保護者のようなそれを選んで発す。 「その単純なところ、嫌いじゃないけど、なんとかしないと痛い目見るよ、そのうち」

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