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パーフェクト・ワールド・レインⅡ-9
「バランスを取るために風紀は楓を擁護するとでも言いたいわけか」
「バランスは大事だろ。何事も」
生徒会を中心に、成り立っていたはずのバランス。危うくなっている、とまでは言えない。少なくとも、今は。
「トップを挿げ替えたくなったら言えよ。たまにはそう言う祭りも楽しいだろ」
「――それは」
ふっと小さく向原は笑った。
「随分、楽しそうだな」
あの子どもに、それほどの力があるとは到底思えない。けれど、それと別次元で、そのたらればを想像しなかったと言えば、嘘になる。
そのまま廊下に出て、生徒会室には戻らず外に向かう。
生徒が自治を行う。生徒の自主性を重んじる。そんな校風を掲げる学園が、向原はそもそもで言えば好きではなかった。
けれど、そこに意味を見出す人間もいるのだと知って、その人間に多少の興味を持って、少しくらいなら手伝ってやっても良いかと思った。それが、たぶん、三年は前の話だ。
自分の行動の選択を間違っていたとは思わない。けれど、たまにすべてをなかったことにしてしまえば、いっそ楽かもしれないと思うことがある。
「あと、一年」
感情の乗らない声で呟く。あの約束を交わしてから、そろそろ丸六年になる。なんであのとき、あんなことを言ったのか、自分でもはっきりとした説明は出来ない。
説明が出来ない、と言うこと自体が初めての経験で、だから、関りを持ってみようと考えた。そうすれば、分かる日が来るかもしれないと思ったから。
アルファに縋らないと言うオメガの生き方に興味を持っただけかもしれないけれど。
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