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パーフェクト・ワールド・レインⅡ-10

 アルファであれば、おそらくある程度の同感は得られるだろうと思うが、幼いころから向原には「出来ない」と言うことがほぼほぼなかった。けれど、それは周囲への優越感を生むと言うよりは、つまらないと言う感情を植え付けるだけに終わった。努力しなくても物事が進むと言うことは、面白みも発展性もない。  近寄ってくる人間も、アルファであるところの自分の能力を求めているだけで、つまらない。  良くも悪くも家は放任主義で、長子でもない自分に過度な期待を向けられることもない。  家を離れて、アルファが多いとされる陵学園に入学したところで、自分のスタンスには何の影響もないだろうと思っていた。  そのはずだったのに、その予想が少し覆ったのは中等部の入学式早々で、だった。  向原には主席入学者になるつもりは更々なかったが、狙っていた人間が多かっただろうことは想像に難くない。伝統ある陵学園で、壇上に立つことが名誉だと考える生徒も保護者も多い。  新入生代表、として名を呼ばれた少年に、式場が騒めく。確かにきれいな顔をしているとは思った。似非臭い笑顔だとも思って、アルファだと当然の顔で囁く周囲に、思わず眉をひそめた。  ――あれがアルファ?  冗談だろう、と向原は一人思った。あれは、オメガじゃないのか、と。それがアルファの中でも上位種だと称される自分の勘だったのかと問われると、たぶんそうだとしか答えられない。  もう一つ思ったことがあるとすれば、その身体で目立つ真似をするとは自意識過剰な馬鹿だな、と言うそれだった。

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