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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 13ー4

「へぇ」  それもまた信じる気のない、呆れた調子だった。 「まぁ、べつにいいけど。――ほら」  無言で差し出された左手に、遠慮なく消毒液をかけたが、なんの反応もなかった。  しみているだろうに。そういうところが、本当に昔からかわいげがない。  ――これだろうな、血の匂いの原因。  ほとんどは細かな傷だが、甲のあたりが、少し深く切れている。消毒液を机に置いて視線を戻すと、静かな瞳と目が合った。 「なにしたら、こうなるわけ?」 「窓」 「なんで拳でいくんだよ……」 「血が出るほうが興奮するやつがいるからだろ」  人のことはなんだかんだと言うくせに、自分のことについては、向原もたいがい無頓着だ。  患部にテープを貼って、もう一度、その顔に視線を向ける。  懐かしい匂いが充満しているせいか、流れる空気まで昔に戻ったような感じがした。  将来のことなんて、まだ遠くてよくて、もっとずっと子どもでいることができたころ。  あのころは、今よりほんの少し息がしやすかった気がする。自然に笑うことも、もう少しまともにできていたかもしれない。  感慨に蓋をして、もうひとつを問いかける。 「それも?」

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