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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 13ー5

 薄暗がりではほとんどわからなかったが、明かりの下で見ると気づく程度には、唇の端が切れている。 「腹殴るのも陰湿だと思うけど、顔は顔で目立つ。やめとけばいいのに」 「自己顕示欲だろ、ただの」 「……そこまでわかってて、殴らせてやるのもどうかと思う」  どこまでもあっさりとした返答に、知らず溜息を呑み込んだ。  やっていることが、中等部のころから――あるいは、自分が知るより以前の、ここに来る前のころから、なにひとつ変わっていない気がしたからなのだろうか。  妙な頑なさにもやりとして、口を挟むつもりのなかったことを成瀬は言った。 「ガス抜きって向原はよく言うけど。いいかげん、もうちょっと落ち着いたやり方にしたら?」 「一番手っ取り早いんだよ。こっちも多少は発散になる」 「発散って」  失笑したところで、それ以上は胸中に留めた。それこそ今の自分がどうのこうのと言うことでもない。  篠原がやり過ぎだと気にしていると言うのも、さすがに卑怯だろう。  ……それに、苛立たせてんのも、溜め込ませてんのも、俺なんだろうし。  そうであるという自覚は、最低限持っていた。

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