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パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 4-4
少し前のことだ。四谷が考えていたことを吐露してくれたとき、「自分もオメガだったらよかったのに」と、「ずるい」と、最後のほうに、ぽつりとそう言っていた。
あのときは、ごめん、とすぐに撤回してくれたけれど、間違いなく本心だったのだろう。四谷にとっては、自分も、水城も、オメガで、ずるい存在なのだ。そのことを思い知った気分だった。
*
――結局、最後まで戻ってこなかったな、四谷。
放課後の教室で、行人は無人のままの四谷の机を見やった。机の横には鞄がかかっている。「寮に戻っているか、保健室に逃げ込んでいるかだろうから気にしなくていいと思う」と言い置いて、岡は部活に行ってしまったけれど、できるわけがない。
もっとも、自分が気にしたところで、四谷は嫌がるだけだろうけれど。溜息を吐いて、教室に居残る名目で広げていた課題を片づける。
時間に余裕があるのなら生徒会室に顔を出す選択もあったのだが、なんだかそれも気が乗らなかった。高藤に、いてもいなくてもいいというふうな態度を取られたことに拗ねているわけではない。
――なんか、このあいだ、四谷のことを話したときも、ぜんぜんどうでもよさそうだったし。
生徒会のほうが忙しくて、それどころではなかったというだけかもしれない。だが、あれは「また、よくわからないこと言ってるよ」という顔だったと行人は確信している。
もともと、高藤は、四谷のことを少し苦手がっていた。そのことも行人は知っていた。その高藤に、また四谷と揉めたということを、揉めたままの状態で知られたくはなかった。
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