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パーフェクト・ワールド・エンドⅤ 0-1

 ひとりで談話室に戻ってきた四谷に声をかけられたとき、いいな、と思って、同時に、なにもしなかったくせに羨むだけ羨む自分が恥ずかしくなった。  後悔したくないと決めて、自分にできることをがんばろうと改めて誓ったつもりでいた。  だから、「ずっと同じなんてありえない」という四谷の台詞が深く刺さった。でも、自分の中で育った感情を取り出し終えたとき。四谷のようなすっきりとした表情をすることができる自信は、微塵もなかったから。  *  きれいで、かっこよくて、優しくて。なんでもできる完璧な人だと思っていた。それで、オメガの自分にも態度を変えない、信頼できる人。  絶対に自分を選んでもらいたいと焦がれるような激情ではなく、視界に入れてもらえるだけで心がそわそわとするような。そんな憧れに似た思慕で、けれど、たしかに恋だった。恋、だった。 「あ……」  昼休み。なんとなく足を向けた図書室で見かけた姿に小さな声がもれる。声をかけてほしくてこぼしたわけではなかったのだけれど、過たず彼の視線が上がる。当然とにこりとほほえまれ、行人はふっと力を抜いた。  いつかのように招かれるまま、正面の椅子を引く。 「どうだった? 仲直り」  ひさしぶり、という穏やかな声のあとに続いた問いに、行人は、はい、と頷いた。たぶん、どうなったかは承知しているのだろうけれど。そうわかっていても、直接、聞いてもらえると気にかけてもらっているようでうれしいな、と思う。

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