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パーフェクト・ワールド・エンドⅤ 0-2

「いろんな人に迷惑かけたと思うんですけど、どうにか。えっと、その……成瀬さんも」 「ん?」 「ありがとうございました。えっと、ここで、話聞いてくれて」 「ああ」  べつにぜんぜんかまわないのに、と。いつもの調子でさらりと請け負った成瀬が、ふと思い出したという調子で、もうひとつを問いかける。 「そういえば、向原に話しかけたんだって?」  珍しいというような、あるいは、ほほえましいというような。そんな顔で彼が笑うので、行人も小さく苦笑をこぼした。少し前の自分なら、絶対にしなかっただろうな、という自覚はある。  ――でも、成瀬さんが知ってるってことは、向原先輩が言ったのかな。  まぁ、べつに、話されて困るようなことは言っていないつもりだけれど。 「案外、ちゃんと聞いたら、ちゃんと答えてくれるだろ、あいつ」  そのとおりだったので、行人はもう一度頷いた。あくまでも世間話というていだったけれど、信頼が声音ににじんでいる気がした。  優しくしてくれた、だとか。尊重してくれた、だとか。自分がこの人に惹かれた理由はいくらでもあるけれど、たとえば、成瀬だけではなく、茅野だったり、篠原だったり、あるいは、高藤だったり。自分がそばにいて安心する人には、ある種の共通点があることに行人は気がついていた。  すぐに感情的になって感情や思考がぶれる自分と違って、芯があっていつも変わらないでいてくれることにすごくほっとする。……まぁ、高藤に関して言えば、同い年というプライドがあるせいか、もっと感情を出してくれていいのに、と勝手なことを思うことも年々増えているのだけれど、それはさておいて。

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