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パーフェクト・ワールド・ハルⅡ-2

「あれ。おはよう、榛名ちゃん。早いんだね」 「荻原」   ガラ、とドアを引いて入って来た荻原は、行人を見止めて眼を瞬かせた。けれどすぐに相好を崩した。副フロア長に選ばれるだけあって、無駄に美形の多い陵学園の中でも目立つ華のある存在。高藤よりもさらに高い百八十近い長身なのに威圧感がないのは、人好きのする雰囲気故かも知れない。 「俺も早くに目が覚めちゃって。と言うか、美岡の寝言が凄まじいんだよね。あれ、マジで安眠妨害なんだけど。高藤はそんなことない?」 「ないな、さすがに」 「だよねぇ。イメージに合わないもんね。榛名ちゃんも言わなさそうだけど。……あれ?」 「なんだよ」 「榛名ちゃん、香水付けてる?」  隣に立った荻原の頭が近づいてきて、さりげなく避けるように行人は距離を取った。そして、これ、と小ぶりのボトルを掲げる。 「悪い。匂い、きつかったか?」 「ううん、全然。でも、そっかぁ。どうりで。たまに榛名ちゃんから良い匂いするなぁって思ってたんだよね。なんか花の蜜みたいな」  花の密。その表現に知らず、香水を持つ指先が冷たくなった気がした。荻原はそんな変化など露知らずで、楽しそうに口を動かし続けている。 「ハルちゃんからも良い香りしてさぁ。あ、ハルちゃんって、水城ね。水城春弥。ウチのクラスの大半がそう呼んでんの。可愛いでしょ?」 「可愛い……」 「あ、大丈夫、大丈夫。そんなに嫌そうな顔しなくても。高藤は呼んでない派閥だから」 「派閥ってなんだよ、と言うか、大丈夫もなにも、聞いてねぇし」  主席入学者である水城春弥は、アルファばかりで構成されていると専らの評判の特別進学クラスに配属されている。無論、高藤もこの男もそうで、行人は違う。 「またまたぁ。でも、一回見に来てみたら良いよ。本当、なかなかすごいから。聞いてない? 高藤から」 「アルファが虫みたいに休み時間のたびに群がってるって話なら聞いた」  初日の授業が終わった日。珍しくどんよりとした空気を纏って帰寮した同室者の言である。あの調子が寮でも続いてると思うと、俺、せめて寮は違って良かった、本当に、と。健気な良いこと探しを遠い目で始めていた姿から鑑みるに、凄まじかっただろうことは間違いない。 「虫って。さすが高藤としか言いようがないんだけど。でも、まぁ、お姫様ではあるよね、ウチのクラスの」 「お姫様もなにも男だろ」  アルファにとってみれば、女もオメガも同じなのかもしれないが。吐き捨てた行人に、きょとんと荻原が首を傾げた。高藤を相手にする気分で言い過ぎたかと身構えかけた行人に、荻原は眉をひそめて囁いた。

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