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極上の月 1

洋月の君(ようげつのきみ)、お久しぶりですね」 「桔梗の上(ききょうのうえ)も…」 御簾越しに話す相手は、左大臣の娘の桔梗の上(ききょうのうえ)だ。 彼女は俺の元妻で、帝の勅令に基づいて二年前に離縁した相手だ。 桔梗の上にお子が出来ないというのが離婚の表向きの強引な理由だったため、当時は世間の晒し者になってしまい、大変気の毒なことをした。 その責任は、すべて俺の方にあったのに。 というのも当時の俺は桔梗の上とは形式上の婚姻のみで、有ろうことか義父である帝に躰を明け渡す生活を強いられていた。 桔梗の上との離婚は、あらゆる嫉妬に狂った義父が俺から何もかも奪い取るための、俺を幽閉するための手段の一つだった。 そんな人に言えない哀しい秘密に、一番身近にいてくれた親友であり、桔梗の上の実兄である丈の中将(じょうのちゅうじょう)が気付いてくれ、命懸けで助けてくれた。 俺も彼の愛情を受け止め、汚された躰を清めてもらうように深く抱き合った。 やがて俺を蔑ろにした帝は崩御され、俺達は平穏な日々を取り戻し、宇治の山荘で人知れず睦み合う穏やかな時を過ごしていた。 そして離婚して1年後、新しい帝の女御に桔梗の上が特別な計らいで選ばれ、俺が与えてやれなかった幸せをようやく手にしたと風の便りが届き、ほっとしていた。 そんな桔梗の上から内々に呼び出しがあるとは、一体何事だろう。 お互いの立場を考えると、軽々しく会える相手ではない。 もともと俺は彼女に嫌われていた。 形式上の婚姻でも仲良くしたかったが、彼女は俺を拒んだ。生まれた時から女御へと望まれ気高く育った姫には、臣下に下った俺では不釣り合いだったのだろう。 だがあんな形で別れてしまったので、せめてもの礼は尽くしたかった。 そんな気持ちに押され、指定された山荘へと、こうして足を運んだわけだ。 彼女は今宮中を離れ療養しているそうなので、見舞いも兼ねていた。

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