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極上の月 2
「まぁ洋月の君は相変わらずお美しいこと。男性であるのを忘れてしまう程ね。私はいつもあなたのその神々しいまでの美しさに気後れしていたわ」
「そんな」
「私はあなたより二つ年上で甘えるわけに行かなかった。初めての婚姻は何かと不安だったのに、私が一度冷たくあしらったら、もう二度と近づいて来なくて本当に可愛くなかったわ。それにいつも余所余所しかった。心ここにあらずといった様子で」
「それは俺も幼かったから…あの頃の無礼をどうか許して欲しい」
「でも今なら分かるわ。あの時あなたには他に好きな人がいたのね」
「何故そのようなことを?」
「あなたがとても幸せそうに見えるからよ。その方と今ご一緒なのね。でも宮中でその女子 の姿を見たものはいないそうね。一体どんな女子なの?」
「…」
「あら答えにくかった?別にいいのよ。私は今とても幸せだもの」
「幸せですか」
「ええ。ここをご覧なさい」
そう言って桔梗の上は、自身の腹をそっと手のひらで撫でた。よく見ると腹が柔らかい曲線を描き、ふっくらと膨らんでいた。
「あっ…」
「そうです。身籠りました。私のお腹に新しい命が芽生えたのよ」
「そうだったのか。あっ…その…おめでとう」
こういう時どんな顔をしたらいいのか、不慣れで分からない。
「くすっ変な気分ね。元の婚姻相手にお祝いをしてもらうなんて。あなたは結局一度も私に触れなかったくせに。でももうすべて水に流しましょう。私はもうとっくに流れているわ。あなたも早くその女子 とお子をお作りなさいよ。そうすることが一番大切よ」
「…」
「まぁ…呆れた。何も言えないのね。もうお会いすることもないでしょう。今宵私は、結局何をしたかったのかしら。もしかしたら、あなたにこのお腹を見せてやりたかったのかもしれないわね。私って意地悪よね。ふふっ、でも当時私が宮中の笑いものになったことに比べたらこの位よいでしょう?」
「桔梗の上。俺は一生、誰とも婚姻することも子を授かることもない。でもそれが自分の選んだ道だ。あなたと俺はもう道は別れ、お互い違う世界に生きている。もうお会いすることはないだろうが、最後に直接詫びる機会を与えてくれてありがとう。本当に申し訳なかった。どうか幸せになって欲しい」
なんとかそれだけ告げた後、俺は足早に山荘から立ち去った。
疲れた。
会う相手を間違えたのか。
俺は何をしに、ここへ来たのだろうか。
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