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極上の月 3

「宇治の山荘へ戻る」 ぼんやりと眺める牛車の窓からは、月を映した美しい湖が見えて来た。 だが月が湖に溺れそうな程大きいことに違和感を覚えて、思わず牛車に付き添う従者に声を掛けてしまった。 「今宵の月は妙に大きいな」 「洋月の君様、今宵の月は特別ですよ。この何年かで一番大きく見える特別な月だそうです」 「そうなのか…」 なんて重たそうな月だ。 湖にそのまま重く沈んでしまいそうだ。 嫌な気分だ。桔梗の上のあの膨らんだ腹を思い出してしまう。 あの腹がもう少し経てば、この満月のようにまん丸に大きくなるのか。 俺はそのまま黙り込んでしまった。 山荘に到着すると丈の中将がすぐに出迎えてくれ、心配そうに俺の手を取ってくれた。 「洋月…何処へ行っていた?」 「…別に」 答えたくなくてぶっきら棒に言い捨て、せっかく繋いでくれた手も離し、自室へと駆け込んだ。 壁にもたれ、きゅっと膝を抱えて蹲った。 こんな酷い顔、見せたくない。 するとそっと御簾の隙間から丈の中将が入って来て、小さい子をあやすように優しい声で尋ねて来た。 こういう時の丈の中将は、本当に俺に甘い。 「妹の所に行ったのか」 「なぜそれを?」 「わがままな妹から、さっき文が届いてな」 「文?」 「どうも体調が落ち着かず、その当てつけにいろんな人を見舞いと称して呼び出しているみたいだな。洋月の君も呼びだされたのだろう?従者から聞いた」 全くおしゃべりめ。 「で、桔梗の上からの文には何と?」 「私が誰とも婚姻しないのは何故か問い詰めると書いてあったぞ。相変わらず怖い妹だよ」 「…はっ…」 「洋月は嫌な思いしなかったか。妹に何か言われたのだろう?」 俺は力なく笑うしかなかった。 御簾越しに大きく輝く月が、今宵は本当に恨めしい。 あんなに丸く、はちきれそうに大きくなって。

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