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極上の月 4

「今宵の月は嫌いだ」 「なぜ?ちゃんと理由を話せ」 「だって…」 「だって?」 「桔梗の上の腹のように丸いからだ。あっ…」 これ以上余計なことを言わないように、己の口を慌てて手の平で押さえた。 こんなみっともない嫉妬めいたことを言ってしまうなんて。激しく後悔した。 恥ずかしくて消えたくなってしまう。 丈の中将と俺は、男と男だ。 永遠にその性は変わることはない。 当たり前だが、俺たちの間には一生血を分けた子供なんてやってこない。 実母が早く亡くなったせいで、身代わりのように義父の慰み者となってしまった自分の生い立ちに嫌悪感がある俺は、それでも一向に構わない。 だが丈の中将はどうだろう? 丈の中将への見合い話は山のようにあると聞く。彼には女子と婚姻し普通に子を授かる幸せがあるのに、本当に俺なんかでいいのか。 いつもは静めている負の感情が、さざ波を立て始める。 「洋月…馬鹿だな。今宵の月は俺たちにとって最高の月なのに」 丈の中将が座り込んでいた俺を立たせ、覆いかぶさるように背後から抱きしめてくれると、途端にさざ波は静まっていく。 あぁどうして…こんなにも丈の中将の腕の中は安心できるのか。 大きな安定した船に乗っているような、凪いだ気分になれるよ。 「今宵はここ数年で特別に大きな月だよ」 「そうなのか。だが重たそうで…」 「重たい?」 「あぁ湖に沈みそうに重たく見えて、なんだか嫌な気分だった」 「洋月違うよ。あの月は俺たちにとっては『極上の月』だ」 「極上の月?」 「あぁ君は月が好きだろう。大きな月にはいつもの何倍もの力があるそうだ。さぁ月光を浴びて、君の心身に溜まった悪い気を落として浄化しよう。そして願おう」 「そうなのか」 「月は満月に近いほどその力を強めると言われているからな。今宵の満月は願いごとが叶えられる確率が高いぞ、さぁもう泣くな」 「俺は泣いてなんかない」 「嘘だ」 「本当だ!」 突然コンっと直衣の上から心臓を叩かれる。 「ここが泣いているだろう?」 「…」 「案ずるな。私はこれがいい。これが一番の幸せだ。ずっと二人でこのままでいられることだけを願っている」 「本当にいいのか。君には違う道もあるだろうに」 「洋月が私にとって『極上の月』だ。君ほどの人はいない」 ありがとう。俺なんかのために、いつもいつも。 俺は振り返り顔を上げて、君の温かく柔らかな唇をもらう。 「ん…」 どこまでも深く甘い口づけを、今宵も交わそう。そして君への想いを何度でも囁くよ。 「今宵の月は一段と美しいな」

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