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極上の月 5
「洋月いいか。抱くぞ」
「あぁそうしてくれ」
シュッ…
帯が解かれる音が、静寂の中、風を斬る。
結った髻 を崩されると、俺の漆黒の髪は扇のように床に散った。それはまるで絹のように、さらさらと優美に広がった。
普段なら聞こえない音まで聞こえてくる。
あまりに静かすぎる部屋でお互いの息遣いと衣擦れの音だけが響き、恥ずかしさに耳を塞いでしまいたい衝動に駆られながらも、俺はじっと時が過ぎるのを待った。
するりと抜かれた帯はそっと脇に置かれ、丈の中将の手が肌着の袷の更に奥へと伸びて来た。
そしてゆっくりと純白の衣が開かれ、その上に何も纏わない姿で仰向けにそっと寝かされた。
全身を熱い視線を感じる。
「そんなに見ないで欲しい。暗くしてくれないか」
「無駄だよ。灯りを消しても月明りが君を照らしてしまうから逃げられないよ」
「お願いだ」
「今宵の月は特に大きく眩いから無理だ。さぁもう静かに」
丈の中将が俺の耳たぶを噛むと、痛みとは違う感覚が沸き起こる。まるで心と躰に甘美な麻酔をかけられていくようだ。何度も何度も甘噛みされ、躰の奥がじわじわと湿ってくるのが分かる。
「丈の中将、君の顔を見せてくれ」
至近距離で丈の中将と見つめあい、息遣いを確かめるとほっとして、力が抜けていく。
「ふっ…俺だけの中将なのだな」
俺の方からも唇を重ね、じれったいほどの時間をかけ、互いの熱い想いを口づけを通し伝えていくのがいつもの儀式。
ただ快楽に身を任せる交わりではなく、どこか神聖さを失わない、永遠の愛を誓う契りのようだ。
この先何が起きようとも、ふたりの心を引き離せるものはいない。そう思えるほど、互いに真剣だった。
丈の中将の香油を纏った指先が俺の蕾を探し当てると、円を描くように強弱をつけて撫でていく。もうそれだけで、俺のものが切なげに立ち上がり張りつめるのを感じた。
「あっ…ああ…あ…」
途切れ途切れに、どうしても切ない声をあげてしまう。
「や…駄目だ」
俺の声が彼の欲情を勢いづけるのか、体内に呑み込まれた指がぐるりと大きく円を描く。
指は増やされ躰の奥をどんどん押し広げられ、水音が卑猥に俺を煽る。
「あ……そんな…」
「洋月大丈夫だ。心配するな」
思わず吐き出してしまった精を蕾の周りに擦りつけられ、同時に興奮し尖る乳首に吸いつかれて背中がしなる。
「あうっ!」
乳首は特に弱い。丈の中将に胸を差し出すかのように大きく反らし見悶えてしまう。
同時にゆらゆらとしどけなく揺れる腰も、頼りなくもどかしい。
「今宵は随分煽るな」
丈の中将の指はいつの間にか抜かれ、太腿を掴んだ手によって左右に大きく割られ、彼自身をずんと深く挿入される。
「はうっ」
「力を抜いて…」
「ん…あっ…」
振り落とされないように、背中へ手を回し必死にしがみつく。
揺さぶられ甘美な波を共に漂っていく。
共に流れ着く所まで行こう。
どんなに躰を繋げても、形としては何も生み出さないけれども、ふたりだけの愛を育んでいこう。
俺は君にこうやって抱かれるのが好きだ。
愛される喜びも愛する喜びも、みんな君が教えてくれた。
もう二度と離したくないし、離れたくない。
****
あの辱められた日々から俺の手を取って救い出してくれた君は、まるで夜空に静かに輝く月のようだった。
俺は今でも暗闇の世界から、見上げた月を忘れられない。
今宵の月に、君を絶え間なく大切に想っていくことを誓うよ。
厳かな共寝を繰り広げる俺たちを見ていたのは、御簾の向こうに浮かぶ極上の月のみだった。
『極上の月』了
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