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第1話
ザッ......ザッ......ザッ......
落ち葉を掻き分け進む音が静まり返った木々の合間を通り抜ける。
まだ太陽が頭上にある時間だが、ピンと張りつめた冷たい空気が山全体を覆っていた。
「ここに来られるのも今年は今日で最後か」
幸彦 は漸く見えてきた山頂にある神社を見据えながらひとりごちるも、その声を聞き届ける者は誰もいない。
20年程前までは山の麓の村人が参拝に訪れ、子どもの遊び場ともなっていたが、ここ1~2年は唯の1人ともすれ違った記憶がないことに幸彦は哀しみを覚えた。
しかし、幸彦を哀しめている要因は、神社に活気がなくなったことばかりではない。
境内に到着し、まず初めに神社の柱に目をやった幸彦は思わず眉をひそめる。
「......また、増えてしまっているな」
柱に近づき、その柱に深く刻み込まれた傷痕をなぞるようにそっと手で触れていく。
傷痕は幸彦が2週間前に見た時よりも、目に見えて数を増していた。
この傷痕こそが現在の幸彦を哀しませ、苦しめている最たるものだ。
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