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第2話

幸彦はこの神社がある山の麓の出で、大学進学を機に地元を離れていた。 卒業後は物書きを生業としていたが、都会で生活していけるだけの給金を稼げるはずもなく、2年程前、成す術なくこの地に戻ってきた。 その時調度、村役場のお役人に空きがあり、そこに滑り込むことになったのだ。 お役人として初めての大仕事は村人を困らせている害獣、洗熊(あらいぐま)の捕獲を行うことであった。 洗熊は畑の作物を荒らすことで村人を困らせているばかりでなく、山頂にある神社の屋根裏を住み処とし、その屋根裏に上る際、柱に爪痕を数多く残していた。 上役から早急な対処を求められていたし、村の厄介ごとを解決することが幸彦の役目である。 そのことは重々承知の上であったが、捕獲のための対策を中々講じて来られなかった。 その結果、上役は痺れを切らし、「捕獲出来ないのなら駆除もやむを得なし」と言って、洗熊の駆除を幸彦に命じたのだ。 こんなことになるくらいならば、捕獲にもっと精力を注ぐべきだったと今更ながらに幸彦は悔やんだ。 いや、捕獲が滞ればいずれ駆除の命が下ることを分かっていながらも、捕獲することで洗熊の自由を奪ってしまう恐怖におののいた自分を悔やんだ。

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