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第3話

幸彦は幼い頃、人見知りが激しく、近所の子どもたちと中々馴染めずにいた。 山頂の神社までは皆の後ろからついて行くのだが、いざ境内で鬼ごっこやかくれんぼといった遊びをする次第になると、その輪に混ざることが幸彦にとってはとても難しいことであった。 そんな折には、神社の柱に隠れるようにして膝を丸め座るのが幸彦のお決まりの行動である。 そして、皆が遊び疲れ帰り始めたらその後から自分も帰路につくところまでが一連の習慣であるのだが、その日は皆が帰っても定位置から動くことが出来なかった。 本当は皆と遊びたいがその勇気がいつまで経っても出ない自分に、幼いながらに嫌気がさし、そのたまらない気持ちが足をその場に留まらせていた。 その内、無性に悲しくなって来た幸彦の目からは涙が一粒零れ、頬を静かに伝っていく。 一度零れ出すと涙は次から次へと溢れ出してきて、気が付けば幸彦は大声を挙げて泣いた。 「泣くな、小僧」 幸彦は自分1人しか残っていないと思っていた境内から急に声が聞こえたことに驚いて伏せていた顔をあげる。 辺りを見渡してみるが、幸彦の眼は誰の姿も捉えられない。 暫くの間視線を彷徨わせていると、しゃがんでいる幸彦の足元に何かすり寄ってくるものがあった。 その正体を視界に捉えた時にはもう、その感触は足元を離れ走り出していた。 幸彦は何モノかが見えなくなるまで目で追っていた。 ソレは洗熊であった。

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