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はるかわくんの やみ -7-

 サイドテーブルの引き出しから、コンドームを取り出す。 「ハル、ぼくに抱かれたいと言ったよね。」  引き出しの音に耳を澄ませていた春川は、少し緊張した。 「でも、触られるのは…」 「だからそんなの無理だって。ぼくも大人の男だからね。」  わざと音を鳴らして外袋を触ってみせてから、中身を取り出す。  左手の人差し指と中指を押し込んで伸ばす。 「おいで。ぼくは奴じゃないよ。」  わざと佐東のことに触れると、春川は顔色を変えた。気づいてないふうに、続ける。 「大人の男に抱かれるっていうことが、どういうことなのか、教えてあげるよ。」  言い終わらないうちに、こちらから仕掛ける。  春川の足首を掴んで引っ張り、一気に引き寄せて膝に乗せ、細い体を胸の中に抱え込む。 「…ん…ぐッ」  口の中にコンドームごと指を押し込む。  舌をかきまわすと春川はとっさに手を振り上げ、横向きのまま激しくぼくの胸を突いた。 (()いった。)  でも、いい反応だ。 「ね、昨日みたいに舐めてみせてよ。」  咬まれることを想定して、利き手じゃないほうを入れているのに、春川は咬むことはせずに必死に顔を背けることでぼくから逃れようとしていた。 「んん…っ…、ん」  しかも、やがてあきらめてしまったのか、春川は震えながらぼくの左手に自分の手を添え、かわいい舌を見せると、あろうことか本当にぼくの指をそろそろと舐め始めた。目にいっぱいの涙を溜めたまま。 (違うよ、春川。そうじゃないだろ。)  仕方なく指を抜き出し、右手で春川の頭を引き寄せてその口にぼくの舌を入れる。  わざと乱暴に、春川の頭を掴むようにして動かしたが、舌も咬まれることはなかった。 「…ん…はッ…くん……ん」  すくいあげるようにして荒々しく春川の口腔を舌で貪ると、春川の苦しそうな息使いが口の端から時折漏れた。  コンドームのついた左手を、まっすぐした背骨に沿って下へと進ませていく。  ぼくがその場所を探り当てると、春川の胸は痙攣するように軽くわなないた。 「…いいの?」  ようやく春川を解放してあげて、問う。  春川は涙でいっぱいの、未だ怯えた、だけどどこかに熱い何かを潜ませたような目でぼくを見上げた。 「……俺に…なにをさせたいんですか…」 「何かな。」  コンドームを押し込み、めり込ませる。 「――-!!」  さっきよりもうんと奥まで潜り込ませてから、内壁を擦りあげながら前立腺の裏側を探った。  春川が悲鳴をあげてのけぞるので、右腕に力を込めてさらに胸のなかへと抑えこむ。  指を、さらに、奥へ。 「ぐ……」  春川はぼくの肩や胸を押して、ぼくの体からはがれようとし始める。  力を緩めてあげると、倒れ込むようにベッドに手を突いた。 「は…あっ」  体をねじり、きれいな背中を見せて、シーツをつかんだ両手を突っぱねる。ぼくの指を抜こうと、前へ進もうとし始める。  でも、進むたびに体が痙攣して、思うように動けずにもがいている。  太腿を掴まえて抜けそうになっていた指をさらに押し進め、煽る。 「ひぐッ!」  突然春川の背中が反り返った。  指先がコンドームの下から春川の官能のツボを突きとめたらしい。 ―― ここか。  後ろから、太腿をさらに引き寄せ、激しく擦りながら執拗にその場所を追い詰める。 「あ!やめ…ッ!…い…ッ…」  抑制の外れた春川の、可憐で淫らな鳴き声。  その声があまりにかわいく感じられたので、右手を伸ばし、再び春川の中心をつかむ。 「ッ、んアッ!」  右手で扱きながら、左手で春川を犯す。  指で奥をかき回すたびに春川の体はその「意思」に反した音をたてる。  右手の中でぐじゅぐじゅと昇り詰めていく春川の本体。 (…まずい。)  楽しい。かも。   春川の背骨はまた少し痙攣する。  ぎりり、と春川が歯をこする音がした。 「…んっ…ッうク…ん…ん…」  春川の吐息が荒さを増す。  右手の勢いを限界まで増した。 「――ッ!」  何度かの痙攣を繰り返したあと、春川はついにぼくの右手からシーツへ白濁を放った。声はあげなかった。  春川の体から力が抜けていくのがわかったので、出来るだけ静かに指を抜く。 「んうッ…」  優しくしてあげたつもりだったが、春川はそれでも噛み締めた歯の隙間からかすれて絞った声を漏らした。 「…―は…んくっ…―…はあっ…はあ…」  春川は力なく体を横に倒し、もう自分にすら逆らえないのか、荒く呼吸をするたび抑えることもせずにつらそうな小さい声をあげ続けていた。  悪かった。つい楽しんでしまった。限界だろうか。 「…いやだった?」  指からコンドームを外して、ベッドの外に捨てた。  春川の歯ぎしりが、また聞こえる。 「…おもしろがって…たんですか…」  少し考えて、そうだね、と言ってみる。 「どうして…」 「いやだった?」  なにか言おうとしたのをさえぎって、もう一度聞く。 「…いや、でしたよ…それは…」 「じゃあどうしてもっと逆らわないんだ。そんなものじゃないだろ、きみの力は。」  春川はシーツを握りしめ、小刻みに震え始めた。  ゆっくりとぼくに顔を向ける。 「………俺が…、どんな目にあわされてきたか……知りたいですか…」  春川は、目を覚ました際にぼくに見せたあの厳しい顔つきになって、押し殺すようにつぶやいた。  春川のなかで何かがほとばしり始めているのがわかった。  闇を吐き出そうとしているのだ。  静かに待つ。 「…両親が死んですぐ、俺は母方の叔父に引き取られました。  最初は良かったけど、すぐに、そのひとがどうしようもないやつだとわかって…俺をいたぶることに、異様なほど…執着するんです。 …俺がいやがればいやがるほど、そのひとは、喜んでるように見えました…。…いやで…たまらなくて…。 …でも俺の体はそのひとに比べてまだ小さくて、力もかなわないし、…服従するしかなかった。」  春川の目は、まるで佐東がすぐ目の前に映っているかのように、苦々しく宙を睨んでいた。 「何度も逃げようとしました。でもすぐに連れ戻されて。  そのあとは、さらに何倍も激しい体罰が待ってるんです。  俺が少しでも抵抗すれば、おもしろがってさらにしつこく攻められました。そのひとが疲れて眠りにつくまで、繰り返し、体中をなぶりまわしにされて、… …おかげで、みんなの前で着替えも出来ないような体になって、中学も高校も、体育の授業はいつも見学です。そのひとは知り合いの医者に頼んで、そのための診断書まで用意してくれて…」  春川の息がだんだん荒くなってきた。新しい涙が、目じりから幾筋もこぼれ落ちる。  やがて、春川の口元には、またあの自虐的な笑みが浮かんできた。「保護膜」を顔に貼りつけることで自分の感情を抑え込むのが、春川のやり方なのだろう。  春川は、だんだんと早口になって続けた。 「友達が増えて俺の帰りが遅くなると、そいつは学校にまで迎えに来るようになって。逆らえないから、一緒に帰りますよね、そしたら次の日友達から聞かれるんです、昨日はなんで早く帰ったのかって。言えるわけないですよ、変態趣味の叔父さんとラブホでセックスしてましたなんて!夏休みなんか、あいつの別荘に鎖で繋がれて 「ハル。」  体を春川の横に倒し、荒々しく息をしている春川を引き寄せて、胸に押しつけるようにして抱きしめる。 「そんな顔して話さなくてもいいよ。」  ぼくは、きみの「保護膜」は見ないから。  偽りのない、きみの本体だけを見たいから。 (……なるほど。)  深い闇だ。  そこから春川は、ずっと逃げ続け、隠れ続けてきたのだ。 「相談するひとはいなかったの。」 「…―そんなことをしても、…結局…、俺に行く場所はなかったんです。…施設に入っても、体の傷を、おもしろがられるんじゃないかと思ったし…。それよりも、…俺がもっと駄目なのは、」  息を整えながら、春川は最後の闇の底辺を絞り出した。 「いつの間にか、逃げられないんじゃなく、逃げようとしなくなったことです。  体も、あのひとほどじゃないけど大きくなったし、子どものころとは違うのに、道具や薬で押さえつけられてるうちに、あのひとの前だと怖くて、ただ怖くて、体が動かなくなってしまって… …俺は、そのうち、早く行為が終わることだけを考えるようになりました。  逃げずに受け入れて、あのひとの望みどおりに動いて、望みどおりのことをして… …そのうち、もしかしたら、俺は、あのひととの行為に、喜びを感じてるんじゃないか、そう思えてきて、それが一番怖くて、こんな自分が、真底、いやになって… …大学に進学するのと同時に、夢中で、あの家を出たんです。」  春川は息を大きく吐いた。落ち着いてきたのか、声にもう力はなかった。 「俺が出て行くことは想定外だったはずなんですが、俺はわりとすぐに見つかりました。でも、そのたびによくしてくれる友人もいて、…なんとかここまで、逃げて来れたんです。 …だけど、駄目でした。  俺は結局、こういう行為が好きみたいです。」  落ち着いてきたと思っていたが、また殻に閉じこもろうとしているだけなのだとわかる。  闇に沈み込むだけなのに。 「好き?触られるのがそんなに恐いのに?」 「さっきも見たでしょう。俺は、自分からなら喜んでやっちゃうような人間なんです。」  春川は殻のなかにすっかり戻ってしまった。顔にはきっと、またあの自虐的な微笑みが浮かんでいることだろう。 「いやなんだろ。触られるのも、やられるのも。」  春川は黙った。 「ぼくに触られることすらいやでたまらないくせに、きみは自分を抑え込もうとするだけでなにもしない。そんなんじゃ、次にそいつに捕まっても、きみは、またそいつに抵抗できない。逆らえないんだ。」  胸にあった春川の体を静かに離して、伏せられた目を見つめる。  春川が、ゆっくりとぼくのほうを見る。 「触られたくないから自分から動くんだろ。それじゃだめなんだよ。繰り返しになるだけだ。」  いつまでたっても「闇」からは抜け出せない。  まだ黙ったままの春川の目から、涙がすっと横向きにつたって、顔の横へとぽたりと落ちた。  わかってくれたんだろうか? 「…ね。今からきみを本気で犯すから、…いやだったら、ちゃんと抵抗しろよ。」 「え………ちょっ」  体を反転して再び春川のうえに乗り、春川の腿を両腕で抱えるようにして足を広げて割りこむ。 「店長!もう…」  春川の腰を引き寄せ、そこにぼくのものを無理やり押し込んだ。  春川は絶叫しながら胸をのけぞらせた。  押さえつけて、突き上げる。  ぼくの指に弄ばれていた春川のそこは、充分に押し広げられていて、それこそ春川の「意思」とは無関係に、ぼくのものを飲み込んでいく。 「あっ!ぁああッ!――あああ!」  飲み込ませた僕の性器を春川の肉壁が押さえ込み、刺激する。  春川の意思ではないだろう。だが、そこは柔らかく滾った淫靡な肉壺と化してぼくのものをくわえ込み、春川が声をあげるたびにぼくの情欲を締め上げてはまたほどく。 (…すごいな、春川…)  思わず興奮してしまう。  絶叫に近い嬌声をあげつづけていた春川だったが、やがて歯をきつく噛みしめて、目を閉じたまま声を上げるのをこらえ始めた。 「…んっ!…んくっ……!ん」  全身に汗をにじませながらも、手はのけぞった体の先でシーツを硬くつかみ、あごを引いて白いのど元を見せつけている。どうやらぼくが与える刺激に対し、いまだ必死に耐え忍ぼうとしているのらしい。  激しく上下を繰り返す胸の上の小さな突起が肌ごと上気していく様は実になまめかしく、ぼくを妖しく魅了し、惹きつけようとする。 …たしかに、 (そそられるな。)  いや、だめだって…  それではぼくも佐東と同じ部類に成り下がる… 「……どうしたハル……今度もまた、抵抗できないのか?…きみは……」  体を起こして春川の腰を両手で動かし、彼の「意思」を促がす。  若い肉塊が激しく揺れる。  春川はついにまた声を漏らし始め、その声は、体は、ますますぼくを高ぶらせていく。…いけない方向へ。  まずい。 「…ほら…ハル…!」  ぼくの息も荒くなってきて、だんだん話しかけるのもおっくうになってきた。  このまま春川は、「ぼくにすら」抵抗できずに終わるのだろうか。 「……店…長……ッ」  春川は苦しそうに両手をシーツからはなし、空中で何かを求めるようにさまよさせた。何か言いたいのか。 「ぁああ…うッ!」  その声を聞こうとして体を傾けると、ぼくのものはさらに奥に沈んで、春川は再び体を反らせた。 …そのさまがたまらなくかわいかったので、ついにぼくは「目的」とは無関係に、「欲求」のままに体をかがめ、春川の胸の突起を舌で弄ったりし始めた。  両腕で支えている春川の腰が、ぼくの舌に反応して激しく動く。 「く…ハル…」  と、今度は春川がぼくの頭に両手を伸ばし、引き上げた。 「ん…」  春川がくちびるをつけ、舌を入れてくる。 …これは、「しつけ」なのか、「意思」なのか。 「ん…っ…んっ」  春川は腰をぼくに動かされるたび、その動きに合わせて上擦った声を上げながら、ぼくの舌を貪った。 「あ……ぁああ…――!」  春川は、突然ぼくから口を離すと、同時に激しく体を痙攣させ、…ついに果て切って、ベッドに沈みこんだ。 「…っ!」  ぼくも少し遅れて、春川のなかに何度かに分けてぼくの液を撒き散らした。  春川は、その度に枯れた声を出した。  ぼくは、まだ繋がったままの春川のうえに、春川を抱きかかえるようにして身を置く。 「……抵抗できなかったね…」  春川は必死に空気を吸いこんでいたが、しばらくあってから、 「……店長、だった、から…」 と言った。  その顔を見ると、なんだか不適な笑みすら浮かべていたので驚いた。 「……ありがとう、ございます…うれしかったです、俺…。……でも、いたいのでもう、抜いてもらえますか…」 ――― 「いやだったら」、ちゃんと抵抗しろよ。 …なんだ。そうだったのか。  春川の顔に浮かんだ笑みは、もう自虐的なそれとはちがった。  ぼくはそれで、もう充分満足した。  うれしくなり、一度軽く春川を突く。春川は小さく声を上げて顔をしかめた。 「ハル。」「…はい。」 「ぼくとそいつと、どっちが、”良かった”?」  我ながら、子どもくさいことを聞いている。  春川は、額に冷や汗を浮かべながらも、に、と笑って、 「店長のほうが」 と言った。 …ああ。  楽しすぎて冷水のこと、忘れてたな。  ごめんね冷水。  また冷水を困らせる。  今度こそぼくは、冷水に、本気で嫌われてしまいそうだ。 (春川 Last Year DATE 5月7日 午後3時47分 へつづく)

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