40 / 43

続 がんばれ!はるかわくん! -14-

・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…  春 川 《 DATE 2月14日 午前10時57分》 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…  暗闇に落ちていく。  さっきまではもがこうとしていた気がする。  が、もう、あきらめた。  横たわった体は徐々に冷たくなり、息も出来ない。  黒いものが体の上に乗っていて、沈み込んでいく体をさらに下へと加速させている。  遠く、上のほうに、まぶしいほどの白い光が見えていた。 (……店長たちがいる世界なんだ。)  本能的にわかった。  手を伸ばしてみようとするが、すでに動かないようだ。  仕方なく、頭を倒して横を見る。  すると、あのひとがいた。  いや、顔は見えない。  でも、あのひとだ。  俺のうえにのって、俺の体ごと、下へと、ものすごいスピードで落ちている。 (一緒に、死のう)  あのひとのささやき声。  死ぬ…。  そうだ…。  俺は、死ぬんだったな…。  やがてささやき声はだんだんと大きくなり、なにかをわめき始めた。怒っているみたいだ。 ―― わかったから、どならないでよ。  行けばいいんだろ。あんたと…  ふと上を見上げて、思う。  あそこには、店長たちがいるんだな。  こことは違う、光に満ちて、きれいなものがたくさんあった、パラレルの現実世界。  きっと今も、店長と俺は、笑っているんだ。  でも、俺は、 ……死ぬ。  死ぬんだ。  だけどそのとき、ふっと心のなかに痛みが走った。 (…やだ…。…いやだ。)  やがて、俺の中のどこかが、暴走を始めた。 いやだ。 死にたくない。 帰りたいんだ、あそこに!  体が跳ねる。  もがこうとして抑えこまれる。 「…んう…ッ」  歯をくいしばって、もう一度、俺は力を込める。 (どいてください!)  声にならない声をあげる。 (どけ!)  あのひとの顔が見えた。  静かな表情だ。  いつの間にか俺を見下ろしている。  なぜか、どこか哀しげな目だ。  暗闇から、まだ体を動かせずにいる俺に向かって、あのひとの手が伸びてくる。  胸の上に置かれて、やがて、それは、ゆっくりと俺の胸に沈み、同化を始めた。  俺は絶叫する。  何度も叫ぶ。 いやだ!いやだ!いやだ!  心臓をつかまれている。  殺される!  死にたくない!  俺は、あんたとは死にたくないんだ!  光が見える。  体が、あたたかいものに包まれている。  いや、誰かがいる。  俺をすくい上げてくれている。  光が、どんどん、近づく。  あのひとが透過して、その向こうに、光はすぐ向こうにある。 ―― まぶしい……  俺は光のなかにいた。  体が軽くなっていく。  あのひとは、薄い透明な影になっていた。  膜のように俺に張り付き、そしてするん、と滑り落ちた。 「カイト」  刹那、あのひとが俺を呼んだのがわかったが、俺はもう、その声には答えないことを決めていた。  あのひとのいないそこには、まばゆいくらいの白い壁が、高く、四方を囲んでいて、そのずっと先の、もっと明るい場所へと続いていた。  力を入れなくても、俺の体は、どんどん、どんどん上昇していく。  あのひとがこっちをじっと見ている気がした。  下を見ればきっと、あのひとのいる暗闇が広がっているんだろう。  目があったら、きっと俺はもうこれ以上進めない。  だから俺は振り返らない。  体は軽やかで、とてもいい気持ちだ。  そう。まるで、ひだまりのなかにいるような…… ―― あたたかい…… (春川 DATE 2月14日 午前11時23分 へつづく)

ともだちにシェアしよう!