30 / 73
波乱の予感
「初登庁は、三日後だったな」
「そうです」
「福光派に入るのか⁉」
「福光さんは、父の戦友ですし」
「福光は、狸爺と専らの噂、大丈夫か⁉」
皆木家の食卓に、一樹さんが加わり、おじさんと、政治の話しに花が咲いている。
二人の会話に、僕も、海斗も、全く付いていけない。
「親父の、生き生きとした顔見んの、久しぶりかもな」
「そうなんだ」
一樹さんのお父さんのお見舞いの翌日。おじさんの提案で、一樹さん、うちに引っ越す事になった。その日のうちに、自宅を引き払い、夜には、ごく普通に、家族の一員として、何ら違和感なく溶け込んでいた。
ーー流石だ。
本日の夕食は、一樹さんリクエストの、オムライス。
おじさんと、会話しながら、目下、チキンライスに入っているピーマンとにんじんと格闘中。
「一樹さん、大丈夫⁉」
「う゛~ん」
ーーかなり、苦しんでる。
ご近所の農家さんが、差し入れとして、山のような、にんじんと、ピーマン、たまねぎを置いていってくれて。いつもの倍、オムライスに入れたけど、やっぱ、入れすぎたかな⁉
ーーごめんなさい
「ナオのご飯、おいしい‼」
「顔、ひきつってるよ」
海斗も、呆れてる。
「一樹、大体、取ったから、俺の食べていいよ」
自分の皿と交換した。
いつもの間に、取り除いたのか、小皿にこんもりと、にんじんとピーマンが乗ってた。
「でもさぁ、農業団体が全面的に支持してくれたんでしょ。視察とかあった時、どうするの⁉
」
ーー確かに
「う~ん」
一樹さん、頭を抱えてしまった。
ちょうど、その時。
橘内さんが、現れた。
顔が険しいから、かなり、ご機嫌斜めかも。
「一樹さん、例の件、ナオさんにお話しされたんですか⁉」
「ん⁉例の件って⁉」
「公設秘書の職を今すぐ辞めても⁉」
大きな溜め息と共に、橘内さん。目が怖い。間違いなく、怒ってる。
「俺、カガミ苦手~。謝るから、もう一回教えて」
「カガミさんって⁉」
初めて耳にする名前だ。
「鏡家は、代々、豪商だった槙家の大番頭を務めてまして、戦後、政治家に転向した槙家に、公設秘書として仕える様になりました。現当主の、礼氏は、一樹さんと同い年ながら、先代の公設秘書を務めてまして、今回、政策秘書として、一樹さんに仕える事になったんですが、はっきりいって、鏡の方が、政治家に向いているかもしれません」
橘内さん、相変わらず手厳しい。
ともだちにシェアしよう!