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オレの嫌いなもの

 店頭に並ぶテレビから、今、ちょっと話題になってる女性歌手の声が聞こえてきた。  別にその歌手の事は、嫌いでもなんでもないけれど、思わず顔をしかめてしまう。 『これ、運命の恋を歌った曲なんです! 映画の素敵な出会いと、彼等が育んできた時間もイメージしました。それと、公私混同になっちゃいますけど、私、原作が大好きで。監督の大ファンでもあるんです。あの素敵な運命を、私も少しでも表現出来たら良いなぁって思いました! 1人でも多くの人が、「主題歌にぴったりだ」って思ってくれたら嬉しいです』  嫌いでもないのに、声が聞こえただけで、ほとんど反射的に顔をしかめた理由が、これ。  爆発的人気を誇っている人気作家の小説が、最近映画化されることになって、世間はその話題でもちきり。  もちろん、そんな事、よくある話なんだけど。オレにとっては映画化された作品の内容が問題だった。問題も問題、大問題だ。  そのせいで、穏やかで健全な日常生活が危ぶまれている。そんな風に言っても大袈裟じゃない。  なんせ、テーマが「運命の恋」なんだから。  違う。  その小説がどんなテーマでも、どうでもいい。嫌なら見なければ良い話なんだ。  だけど映画化される作品が、超人気作家の作品ともなれば、「嫌なら見なければ良い」って言うのは、結構難しかったりする。  バラエティ番組は、出演者をゲストに呼んだり、いわゆるコイバナってやつで盛り上がったり。  人気のあるコンテンツは金になるコンテンツだって言わんばかりに、あちこちで「運命の恋」が大安売りされている。  これじゃ、その話題から、耳をふさいで、目をつむる方が難しい。  恋だの、愛だのに、うんざりしているオレにとって、この状態は地獄みたいなものだ。  それこそ、今まで興味もなかった女性歌手の声が、ちらっと聞こえただけで、反射的にしかめっ面が完成するくらいには。

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