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恋はぶつかってくるもの

 でも、つこうとしたため息が、出てくる事はなかった。  突然の衝撃に驚いて、引っ込んでしまっていたから。  あと、そんなに痛いってワケではないけど、まるきり感じないってワケでもない痛みも、ため息を引っ込める理由になった。まあ、代わりに抑えようと思う暇さえなく、舌打ちが出てきたんだけど。  明らかに人がぶつかってきた衝撃だった。  ただでさえ苛立っているオレの口から、「どこ見て歩いてるんすか」そんなベタすぎる文句が出てくるのは、そんなに不自然な事じゃないと思う。  と言うか、冷静に考えている余裕もなく。 「どこ見て……」  その言葉は、オレの口をついて出た。だけど、途中で止まった。  誰かがぶつかってきた衝撃っていうのが、勘違いじゃないのを示すように、足元で尻もちをついている、男の子が1人。  その子が着てる制服が、目に入ったから。  オレの実家には使用人が何人もいる。オレだって、立場だけを言うなら「坊ちゃん」なんだと思う。  別に普段から「ご子息に相応しい立ち居振る舞いを」なんて思ってないけど、他のご子息様と無駄にケンカしようとは思っていない。人の足元見て行動を変えるのは、綺麗なやり方じゃないけど、同じ「ご子息様」にわざわざ悪い印象を抱かせようとも思わない。  それがオレの主義主張。  だから、喧嘩を売って損にはなっても、1銭の得にさえならない家柄を感じさせる、超有名な名門校の制服を着ている男の子を前にしたら。どんなにイライラしてても、なんとか自制を効かせるしかない。ここで堪えるのと、後からトラブルに襲われるのじゃ、どっちがマシかなんて、分かりきってるし。

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