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 それに、「どこ見て歩いてるんだ」っていうのは、オレの方も同じだ。  今、尻もちをついてる男の子は、明らかに前方不注意。でも、オレだって周りに注意を向けていたかと聞かれたら、向けていた、とは言えない。  イライラしていたし、心身共に結構疲れていたから、注意力散漫。前方不注意とまでは言わなくても、意識はしていなかった。  だから「お前こそ」なんて言い返されてもおかしくないし、もしオレが転がってる男の子側で、文句を言われたなら、間違いなく言い返してる。  ここで下手に争って、両親の耳に入ったら。  実家に戻される可能性だって低くないし、面倒事は避けられない。 「……あー、悪かったっす」  情けないとは思うけど、そういう面倒は避けたい。だからオレは、謝ることにした。  まあ、素っ気ない言い方だったし、視線は泳ぎ切っているし。謝る前には何秒間も黙り込んでいたから、素直な謝罪とは、どう贔屓目に見ても言えないけどさ。  ……事実、心の底から出た謝罪じゃないしね。 「いや、別に気にしてねぇよ。つーか……」  男の子はそこで言葉を切って、立ち上がった。  尻もちをついていた時も思ったけど、立った姿も小柄だ。  タッパはあるのかもしんないけど、横が凄い細いって言うか。  きちんと着こなしていて、着慣れている感だってあるのに、どうしても“制服に着られている”感がしちゃってる。サイズが大きすぎるのかもしれない。  まあ、見ず知らずの他人と、そんなツッコんだ会話をするつもりはないし、本人にバレたら怒られても文句は言えない。  そんなことを考えていたもんだから、オレの前で男の子が、悪戯を企む子供みたいに、口の端だけを上げて笑った時、見抜かれたかな、なんてガラにもなく、ギクッとしてしまった。  悪戯を企んだ顔をしてんのは男の子の方なのに、なんか、悪戯を大人に見抜かれたガキの気分だ。本当のガキだった頃も、こんなにギクリとしなかったのに。

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