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「きちんと前見て歩け、って言いたいなら言っても良いぜ? オレが前をほとんど見てなかったのは確かだしな」  だから男の子の口から出てきた言葉は、ちょっと拍子抜けで、同時に、凄くほっとした。  割とこういう「坊ちゃん」って、甘やかされたボンボンタイプが多い反面、小さい頃から人の悪意とか、そういうのに触れていて、人の心を簡単に見透かしちゃう子も少なくないし。  この男の子は、ぱっと見の印象、明らかに後者の、人の心を見透かしちゃうタイプだ。少なくとも、ただただ甘やかされてる、何もできないボンボンじゃなさそう。  男の子に、オレの、本人からしたら大変に失礼だったんだろう考えが悟られなかった事に安心しながら、その言葉には苦笑を貼り付けた。 「……正直、言いたいのはヤマヤマっすけど、アンタの制服見ちまうと躊躇うかな。それに、オレも前方不注意を指摘される側なんすよねぇ」  後、跳ね飛ばしちゃったのはこっちだし、とは本人の名誉の為に言わないでおいた。  ぶつかった時の衝撃は結構凄かったし、男の子はそれなりに急いでいたんだと思う。でも、オレがびくともしてなくて、男の子は吹っ飛ばされたっていうのは、普通にプライドを傷付けちゃいそうだし。 「はっ、制服についてはそのまま返すっつーの。お前、俗に言う名門の制服じゃねぇけど、立ち居振る舞いで明らかだし。遠慮も躊躇いもいらねぇよ。お前が前方不注意だったところで、オレの方が輪を掛けていたのは事実だ」  何だろう、この男の子、好印象だ。

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