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 オレの近くに、今までいなかったタイプの人間。威張り散らす事もしなくて、明らかに媚び媚びって感じでもない。  あと、恋だの愛だのを建前に、詰め寄ってきたりもしないし。  ちょっと下世話な言い方をするなら、この男の子はオレにとって“珍しいもの”だった。  人間はつい、珍しいものとか、興味を惹かれたものを、凝視してしまう生き物だと思う。あまり物事に興味を持ったりしないオレでも、そんな性質は備わってたみたい。  どうやら、無意識の内にまじまじと凝視してたみたいで、男の子の顔が、悪戯を企む子供の笑顔から、気まずそうな苦笑に変わった。 「何? やっぱ怒ってる? それともオレの顔になにか付いてる?」 「あ、えっと、そんなに急いでどうしたのかなぁ、って」  目と鼻と口が。  そんなベタベタなボケをする余裕なんて、もちろんなくて。咄嗟に、あまりにも苦しい言い訳が、口から出ていた。  苦し過ぎる。同じ言い訳をするにしたって、もう少しマシな言い訳があっただろうに。  自分でも嫌になるけど、1度口から出してしまった言葉は消えない。相手に聞かれてしまったら尚更。  もう、なんとでもなれだ。半ばヤケを起こしかけているオレを前に、男の子は、ぷっと吹き出した。  オレのお粗末な言い訳をバカにする嘲笑じゃない。お坊ちゃん・お嬢ちゃん特有の、スレた感じやお気どりな感じもしない。  それは、楽しくてたまらないから、笑いましたというような、凄く純粋な笑い方。  社交場とかでは、同年代と一緒になる事も多いけど、そうした連中は、家柄で付き合う人間を選んでいる。気は抜かないし、誰しもが誰かの粗を探そうと必死で目を光らせてる。  浮かべるのは、お飾りの表情ばっかり。感情と表情が一致してる人間なんて、きっと、あの世界にはいないんだろう。  オレはずっと、そんな世界に住んでいたから、オレにとってそれが当たり前だ。今更腹の探り合いが日常茶飯事の世界について、なにか思う事はない。日本人が、屋内では靴を脱ぐのと同じくらい、オレには常識として身に付いている事。  でも。  だからこそ。  住んでいる世界は同じであるはずの男の子が、無邪気な笑顔を見せた事に、オレは凄く驚いた。  驚いたし、ますます興味を持った。

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