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 多分オレは、男の子の笑顔に驚いたことで、黙り込んでいたんだと思う。さっきまで、そこに確かにあった無邪気な笑顔は、もう、ナリを潜めていた。  もったいない。  男の子が笑顔を引っ込めたのは、多分オレのせいなんだろうけど、それが凄く惜しいものに感じられた。  なんとかしてもう1回、笑ってほしい。  今まで欲求らしい欲求なんて抱いたことなかったのに、オレの胸に、確かに、そんな強い感情が根付いていた。  だけど世間体で浮かべる笑顔じゃ嫌なんだから、厄介で、ワガママだ。  オレがまた男の子に笑ってもらうための言葉を探している間に、本人が“黙り込ませてしまった”ことへのフォローに出る方が早かった。  ……こんなことになるなら、もっと人との“会話”ってヤツを交わしておくんだったかな。後悔しても遅いけどさ。 「……悪い。お前が急に黙り込んだから、オレもオレで身構えてたんだけど。質問があまりに意外だったからびっくりした」  ただ、幸いと言うか、なんと言うか。  まだオレにはチャンスが残っていたようで、男の子は苦笑交じりに、そう言った。なんとか言い訳の余地がある。  腹の探り合いの経験こそあれ、こういうコミュ力は、あんまりない。と言うか、正確には経験がないんだから、未知数。でも、発揮するなら今だ。  ゴクリ。  意を決して息を呑んだ音は、自分の耳に、やけに大仰に届いた。  目の前の男の子には聞こえていただろうか。だとしたら、少し間抜けが過ぎるけど。笑ってくれるなら、それでも良いかもしれない、なんて、どっかで思いだしていた。 「ちょ、ちょっと気になったんすよ! ほら、アンタが通ってる学校の生徒って、あんま走る様なイメージもねぇし、尚の事」  結局、そんな風に、自分で自分の背中を押して切り出した言葉は、出だしでつまづいた事を抜きにしても、全然スマートじゃない、お粗末なものだったけど。

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