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忍耐の文字は、オレの辞書にない。
今、オレは、こういう色恋沙汰に、いつもに増して苛立ってる。
そんな中で、声をかけてきた2人組に殴り掛からなかっただけ、オレは褒められても良いと思う。
堪えきれなかった舌打ちなんて、可愛いものだろ。
とは言え、思わず漏らした舌打ちは、2人組を怯えさせたり、不快感を抱かせる事はなくて。「きゃっ」なんていう黄色い声さえ引き出してしまったから、逆効果だったかもしれない。
2人組は、オレが話を聞いていても、聞いていなくても関係ないらしい。
オレの反応も気にしないで、自分の言いたい事を好き勝手話している。
狙ったような、明らかに作り物の猫なで声。妙にシナを作って、くねくねと体を動かす。制服のボタンは無駄に開けていて、下着や谷間 を躊躇いもなく晒していた。
別に女性恐怖症とかではないけど、ただでさえ苛立っているところに、あからさまな事をされれば、嫌悪感も凄いし、吐き気だってする。と言うか、それも通り越して殺意が沸きそう。
学校でのゴミ処理に疲れているのに、世間のブームは「運命の恋」。
そこに、痴女の追撃だ。気の長い人間でも多少イライラするだろうし、短気なオレの頭は、「出来るだけ事故に見せかけて、この女を殴る方法」を検索し始めている。
多分、もう少しケータイが震えるのが遅かったら、オレはそれを実行に移してた。
普段は家からの連絡なんて、うんざりする事この上ないし、なんならギリギリまで無視してるんだけど、今回ばかりは救われた。
「電話出るから、あっち行ってくんない?」
でも、こういう女が、これだけで退いてくれるはずもない。
「えぇ~。わたし、電話が終わるまでぇ、待ってるよぉ?」
「うんうん! キミとお話ししたいから、いくらでも待っちゃう~!!」
あいかわらず、作り物の猫なで声。
香水をぶちまけすぎて、芳香剤の方がマシなニオイに思えるほどの悪臭を漂わせた体が、オレに近付く。オレの腕を取ろうと、手が伸びる。
ぷっつーん。
ドラマのように。マンガのように。気が短いオレの、忍耐の糸は、それであっさりと切れたのだった。
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