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 こんな汚い手に触れられてたまるかと、オレは露骨に自分の腕を引き寄せる。女は掴もうとしていたオレの腕が急になくなった事で、少しよろけた。そのまま寄りかかられては、本当に吐きかねないから数歩後ろに下がる。  幸い、寄りかかられる事はなかったけど、何なら無様に転んでも良かったのに。そうすれば、ほんの少しは気分が明るくなったかもしれない。  オレは、何が起きたか理解していないのか、目を丸くして驚いている2人組を睨み付けた。 「アンタ等、頭悪そうだけど耳まで悪いんすか? オレはあっちに行け、って言ったの。アンタ等みたいなのに待たれたって、不愉快極まり無いだけっすよ。虫唾が走るって、こういう事を言うんすね」 「はぁ!?」 「な、なにそれ!!」  オレの性格を知っているクラスメイト達は、迷惑だけど、これくらいでめげたりはしない。だから何度もアタックされてる。  でもオレの性格を知らない、外見だけで声を掛けてくる人間に、この方法は有効だ。  自分の思ったままを、綺麗とは言えない言葉で投げ付ければ、大抵ブリッコを忘れて逆ギレ気味にオレを罵倒し去っていくか、呆然と立ち尽くしてくれる。  今回も例に漏れず、さっきまでの猫なで声はどこに行ったのか、何倍も野太い低い声でヒステリック気味に叫び、オレが歩き出した後も、賢いとは思えない言葉で喚いている。  それで自分の評価が下がるって、分からないのかな?   でも、もちろん気にもならない。無視だ無視。  よく知らない他人に、何か言われたところで痛む胸なんて持ってないし、頭悪そうで下品な言葉を叫んで、世間から白い目を向けられるのは女の方。そんな情けない姿を世間に晒し続けてくれれば、不愉快な気持ちにされた分の仕返し程度には気も晴れるし。あわよくば担任や生活指導あたりに見付かって、罰則を喰らってくれれば上々。  さて。  厄介な女の問題が解決すれば、今も鳴り続けているケータイは、悩みの種になる。助け舟が泥船、ってこういう事を言うのかな。  でも、電話を無視すれば自宅に突撃されそうだし。  ここで電話に出るのと、後々自宅に突撃されるの。どっちがマシかなんて、考える必要もないくらいに、分かりきっていた。 「あー、クソ。面倒っすねぇ」  文句を言わずには、やってられないけど。

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