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 観念して、オレは通話をタップする。 『坊ちゃん! また同級生からの告白をお断りになったんですか!?』  タップするなり、名乗る暇も与えず、鼓膜を破くつもりなんだろうかと思わずにはいられない声量で電話向こうの人間が叫ぶ。  それを予測して耳から電話は結構離していたのに、耳がキンキンしてるっす……。 「あー、耳が早いっすねぇ……」 『はぐらかそうとしても無駄です! まったく、旦那様や奥様だって坊ちゃんがなかなか好い人を見付けないのを心配に思ってますし』 「心配に思ってんのは後継者の事でしょ? そこは適当にやるって言ってるじゃねぇっすか。元より恋愛婚なんて許されてる身じゃねぇんだし」  そのお説教は聞き飽きてる。ほんと、タコがいっぱい出来ているくらいには。  でも、ここで遮ったところで、同じくらいに聞き飽きた説教が続くって、オレは知ってるけど。   思った通り、オレの言葉に、「そういう問題じゃないんです」「恋を知っておく事は大切です」といった、聞き飽きた説教が届く。  聞き飽きているから、オレは聞き流す。  別に結婚しないとは言っていないのに、両親も使用人も口うるさいったらない。  一応、恋だの愛だのに嫌悪感を抱いていても、それなりの家柄の娘さんを嫁にもらう必要・後継者を作る必要は分かっている。そうしなきゃいけない自分の立場ってヤツを、オレはガキの頃から理解していた。  今でも、その立場が嫌だと駄々をこねるつもりはないんだから。  自分で言うのもなんだけど、ご子息様としては、なかなかの心構えじゃないの?少なくとも、よく小説やドラマで見る、駆け落ちを試みたり、「跡継ぎなんてごめんだー!」と叫び出す坊ちゃんよりは、まともだと思ってるんだけど。  でも、両親も、親戚も、それじゃ不満らしい。口をそろえて「人を大切に想う気持ちは必要だから、恋くらいは経験しておけ」と余計な世話を焼いてくるんだから。  もちろん、使用人は両親に雇われているんだから、両親の味方。「坊ちゃん(オレ)を心配している」っていうのが言い分だけど、これも余計な世話だ。  そもそもこの家で、あの両親が、あの親戚が、恋だの愛だの大真面目に説いてみせるなんて、思ってもいなかった。お笑い草。おかしいにも、ほどがあるだろ。

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