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 なにせ、当たり前のように、愛人を囲っているんだから。  その口で、恋や愛を語られ、人を想う大切さを説かれても、オレには響いてこない。ん?それとも「恋多きことも大切」なんて言うつもりなのかな?  名家が愛人を囲ってる、なんて言えば、まだ少しは聞こえが良いのかもしんないけど、しょせんただの不倫じゃん。バカらしい。  それとも、そんなややこしい考えは持っていなくて、オレが気付いていないとでも思ってるんだろうか。  だとしたら、そんな節穴な目を持つ人間、恋を知る知らない以前に、頭首として不適切だと思うけど。  なんせ、やっている事が分かり易すぎる。次期頭首なんて大層な肩書なくても、見破れるって。最近のガキはマセてるから、小学生でも見抜けそうなもの。  そんなヤツ等から、愛について・人を想う気持ちについて説かれたって、1ミリも響かない。  オレの気持ちなんて分かってないのか、それともオレの気持ちなんて関係ないのか。  電話の向こうで、使用人がまだ何か言ってるのが聞こえてる。愛を、恋を、うんたらかんたら。  あの2人組を追い払うきっかけになってくれたのはありがたいけど、今ではもう、この電話が鬱陶しくて厄介だ。律儀に相手をする必要もないよね。 「はいはい。じゃあ、切るっすよー」  もう良いだろと勝手に自己完結して、話を聞いているとは思えない、適当な言い方を返す。  実際、話なんて聞いてないけど。  それは電話の向こうにも十分伝わったみたいで、「ちょっと坊ちゃん!?」なんて焦った声が聞こえたけど、これについてもシカトで通話終了ボタンをタップ。  強引に打ち切った電話だけど、ここでかけ直してこないのは、まだマシとも言える対応だ。まあ、十中八九、“ご子息様のご機嫌窺い”ってヤツなんだろうけど、利用できるものは利用したって良いでしょ。 「……マジでくだらねぇ」  ケータイを鞄の中へ放り投げて、オレは今日1日の苛立ちを込め、吐き捨てた。

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