41 / 198

葉月(5)

「そ、そう言えば、翔太は進路どうするん? やっぱり大学行っても野球するんやろ? またどっかから誘いとかきてるんちゃうん?」  中学の時だってスカウトが来てたんだ。高校では去年までは、これといった成績は残せてなかったけど、今年はノーヒットノーランで、あれだけ注目を集めてたんだから、きっとどこからかの誘いはあるはずだと、翼は確信していた。 「あぁ……」と、翔太は困ったように頭を掻く。 「実は、W大のセレクション、受けてみーへんかって、監督に勧められてる」 「え? それってスポーツ推薦みたいなやつ? 凄いやん! しかもW大学!」 「でも、うちの野球部、地方大会で二回戦敗退やしな。来週のセレクションに合格した上で、9月にAO入試受けなあかんけど」 「来週なんや! セレクションもAOも、翔太なら絶対合格するわ!」  今度こそ翔太が野球の強いところで、活躍できる。そう思うと、翼は自分の事のように嬉しくて興奮していた。  だけど、そんな翼を見つめる翔太の瞳が、ふっと寂しそうに陰る。 「でも、まだ悩んでる……セレクションを受けるかどうか」 「え? なんで!」 「翼は寂しくない? W大は東京やし、野球部に入ったら、夏休みも、そうそう簡単に帰って来れへんし、来年からは夏祭りも、こんな風に偶然にでも一緒に行けなくなるんやで?」 「それは寂しいけど……」  そうだ。よく考えたら、翔太には、もう今までみたいに会えなくなる。  それは寂しい。  それでも、野球をしている時の翔太が好きだから。 「でも、せっかくのチャンスやん。翔太、高校選ぶ時も、甲子園出場確実な地方の高校からの誘い蹴ってたやろ? 俺、勿体ないって思っててんで? なんでやりたい事やらへんのやろって」 「好きな野球は遠くに行かんでも、どこででも出来るやろ?」 「だって、勿体ないやん……もっと強いチームに入ってたら甲子園だって……」 「じゃあ聞くけど、翼は写真撮るの、あんなに上手いのに、なんで写真部に入らんかったんや? コンクールとかにも、作品を出したりしてへんやろ?」 「俺は……」  翔太の写真を撮るのが好きなだけ……とは、言えない。 「俺の写真は、ただの趣味やん。一緒にしたらあかんわ」  その時、不意にヒューッという笛のような音が聞こえたと思った次の瞬間、ドーンと鼓膜を震わせる炸裂の音が鳴り、辺りが一瞬で明るくなった。  公園の南側広場で、祭りの最後を締めくくる花火が上がったのだ。  夏の夜空に広がる花の輪は、手を伸ばせば届きそうなくらい近い。  本当なら、山側の神社まで続く屋台を回り、高台に位置する神社で花火を見る予定だった。 「俺は、翼と離れたくない……」  無数の細い筋が空に上がり連続で爆音を響かせながら、あっという間に色とりどりの美しい光焔が漆黒の空を埋め尽くす。  翔太の言葉は、その音に掻き消され、最後の方が聞き取れなかった。

ともだちにシェアしよう!