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それから~epilogue(最終話)
翔太の住んでいるマンションは、1フロア1住戸のつくりになっている。
「あっ、あった……良かった」
最上階にある翔太の部屋の前で、翼は安堵の声を上げた。
さっきエントランスでオートロックを解錠した時に使って、ポケットに入れた筈の鍵が無くて焦っていたのだが、それが鞄の中から見つかった。
どうやら、無意識に鞄の中に放り込んでいたらしい。
それで漸く玄関の鍵を開けた瞬間だった。誰もこのフロアまで来るはずがないのに、エレベーターホールから人が走ってくる気配がした。
(えっ、誰や!)
思わず心臓がドキリと跳ねる。
「翼」
呼ばれて振り返ると、そこには翔太が立っていた。
「なんで? 帰ってくんの早過ぎへん?」
「速攻で帰ってきた」
言うが早いか、翔太はドアを開き、翼の身体を背後から抱くようにして、部屋の中へ押し込んだ。
ドアが閉まると同時に、横の壁に身体を押さえ付けられて、翼は反射的に抗う声を上げる。
「ちょ、っ、何すっ……」
しかし、すぐさま唇を塞がれて貪られ、言葉は翔太の咥内へ消えていく。
「……ん、ん」
激しく舌を絡め取られ、それでいて優しく甘く、上顎を撫でられると、翼の身体から力が抜けていく。
翔太は、膝から崩れ落ちそうになった翼の背中を支えながら、ゆっくりと床へと押し倒した。
「……ちょ、待っ、翔太っ、何、がっついとぉ。ここ、玄関……」
伸し掛かってくる翔太の胸を押し返そうとすると、耳元でバリトンボイスを落とされる。
「翼不足や。早 よ補充させて」
その声が、耳から身体を伝い、腰に響き、あっと言う間に体内に熱を灯す。
「……お好み焼き……食べたかったんちゃうん……」
返した声に、甘い吐息が混じってしまう。
「メインディシュが先……」
ぎゅっと抱きしめられて、身体が更に密着する。
翔太の汗の匂いが、鼻を掠めた。
「なんや……シャワーしてけーへんかったん?」
「1秒でも早 よ帰りたかった」
そう言って、また唇を重ねてくる。
「……っ、まだ靴も脱いでないんやけど……」
キスの合間に訴えると、
「ええやん、別に」と返ってきた。
「ちょ、待って……ちゃんと言わせて」
Tシャツの裾から侵入してくる手を止めると、翔太が不服そうに「何?」と訊いてくる。
「完封勝利、おめでとう」
そう言うと、翔太は照れたような笑みを浮かべた。
「絶対勝つって、約束したやろ?」
そして自信に満ちた男の顔になる。
約束した夢は、こうして一つ一つ少しずつ叶えていけばいい。
「それから……ウイニングボール、めちゃ嬉しかった……」
「うん。……他に、まだ言いたい事ある?」
「翔太が好き。大好き」
「俺も、大好きや」
また唇が重なった。
大好きな人が今ここにいる幸せを、キスの温度が教えてくれる。
これからも、色んな壁にぶつかる事もあるかもしれないけれど、一緒にいたいと思う気持ちがあれば、きっと大丈夫。
──年を取っても、ずっと一緒にいよう。
新しい約束の未来は、まだ始まったばかり。
境界線― (Long version)―間接キスから始めよう―
──END + to be continued → →
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