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【夢見がちな女の子】と観覧車⑤ ※ミスト・引田side
ごくん、と――薔薇の香りがするお茶を飲み込んだところで、引田は違和感に気付いた。そして、慌てて口元を抑える。
そのお茶は薔薇の香りを辺りに漂わせていたため、引田はてっきり紅茶の味がすると思い込んでいた。前にいた世界では《フレーバーティー》という紅茶もあったし、この【夢見がちな女の子】が差し出してきたお茶も――その類いなのだと思っていた。
しかし、実際にはその味は紅茶ではなく――かつて、ダイイチキュウの学校にいた頃に引田が熱心に飲んでいたコーヒーと紅茶を足して二で割ったような《C・a・T》というドリンクだったのだ。それは余り人気が無かったのか、引田がこの世界に来る前から発売中止になっており、おそらく今でも売られてはいないのだろう。
――しかも、引田がその《C・a・T》とうドリンクを飲んでいたのには、単に好きだというわけではなく特別な理由があった。その理由があるまでは、むしろ大嫌いだった。
『えっと、引田くん――これ飲んで、元気だしなよ?大丈夫、引田くんは負け犬なんかじゃないよ。それ、あげる!!』
前の世界にいた頃の優太が、かつてクラスメイト達に苛められていた引田へと《C・a・T》を渡してきて、その後に優しく笑いかける光景が、今の引田の脳裏によぎる。
【夢見がちな女の子】が差し出してきた薔薇の香りがするお茶を飲み込んだ途端、引田を襲ったのは――世界全体が回っているかのように感じてしまう程の強い目眩と強烈な眠気だった。
引田は強烈な眠気に何とか耐えつつ、辺りを見回し、先程までは観覧車の窓の外一面に映っていた筈の光景が今度は引田が優太を好きになるきっかけとなった《C・a・T》を手に持ちながら優しい笑みを浮かべる優太の姿に変わった事に気づいて胸騒ぎを覚えつつも――強烈な眠気に耐えきれずに目を瞑り、そして隣で横たわるミストの上に重なるように倒れ込んでしまうのだった。
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