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【さあ、タタカイの時間ね②】
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扉を開けるなり、僕らの目に美しい女性の白い石像が飛び込んでくる。
両目を閉じながら右斜め下へ顔を傾け、天へ向かって開ききった片手を伸ばす石像____。
他の皆がどう感じたかは分からないけれど、少なくとも僕はその美しい石像に対して違和感を覚えてしまう。
(両目を固く閉じているのに天へ向かって片手を上げて何かを求めているようにも見える石像____何か変な感じがすると同時に、さっきから抱いてるこの何ともいえない既視感は何なんだろう……あ、そうだ……ダイイチキュウにあった公園の天使像だ…………)
しかし、そう気付いたにも関わらず違和感は拭いきれていない。
「ねえ、これ……あの公園の天使像にソックリだよね?でも、何か____」
引田の訝しげな声色を聞いて、僕はホッと胸を撫で下ろす。それは、もちろんこの美しい石像に対して、違和感を抱いているのが僕だけではないと気が付けたからだ。
「ああ、そっか。ダイイチキュウの公園にある石像とヒビの位置が逆なんだ。ミストが知ってる筈の石像はヒビが左胸にはいってたけど、これは右胸にはいってる……そうだよね、ユウタ____」
「えっ…………!?」
あろうことか僕らの中で最初にその違和感に気が付いたのは、ミストだった。
でも、それはおかしい。
ミラージュの王宮に幼い頃から仕えているエルフのミストが、ダイイチキュウの存在について知っていること自体はそれほどおかしくはない。
だけど、ミストは僕や誠――更には引田のようにダイイチキュウの世界で割と長い時間暮らしていたわけではないし、公園にだって実際には行ったことはない筈だ。
その証拠といわんばかりに、ミストの隣にいるサンがダイイチキュウの公園に置かれている【女神像】を実際に見たことがないので怪訝そうな表情を浮かべているのが分かる。
「ミスト……お前は、何故そこまでコレについて詳しいのだ?こんなものは、ミラージュの王宮では詳しく見た覚えなどない。強いて言うならば、ユウタ達と、先程目にしたのが初めての筈だが____。ましてや、魔法学校のグリモワールにだって記されてはいない筈だ。それなのに、いったい何故……っ……」
サンは詰め寄りながら、サンへと問い詰める。
どことなくサンが慌てた様子に見えてしまったのは、単なる僕の気のせいなのだろうか。
「だって____」
胸ぐらを掴むくらいの剣幕で詰め寄ったサンを、あろうことか突き飛ばし、それだけでなく懐から杖を素早く取り出すと、衝撃のせいで床に横たわるサンへ向かって杖を二・三度降る動作をするミストの姿が目に飛び込んでくる。
今までとは違い、詠唱することはなかったもののサンの体から青白い雷のような光が走るのが見えたため、体の自由を奪つ攻撃魔法が仕掛けられたことが何となくだが理解できた。
仲間の苦しげに呻く様を見ても、どこか夢見心地で微笑むミストは【女神像】を優しく抱きしめる。
そして____、
「だって…………цнцёの……声が____」
そう呟いた直後、突如としてヒビ割れの隙間からヌッと出てきた白く長い腕に捕らわれてしまったミストは【女神像】の中に吸い込まれていってしまうのだった。
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